2026年、PRはどう変わるのか?〜グローバルトレンドから日本企業に伝えたい5つの視点〜

こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。

毎年この時期になると、海外のPR先進国を中心に、専門メディアが提示する次年度のPRトレンドを確認するのが、私の恒例行事になっています。
2026年のトレンドを俯瞰してみると、

AIの進化、情報過多、社会の分断、企業不信——。

こうした環境変化の中で、PRは単なる情報発信ではなく、企業の思想や判断がより一層問われるようになりそうです。

本記事では、数あるPRトレンドの中から、私が特に「日本企業にとって重要」と感じた5つの視点に絞ってお伝えします。

 
 

トレンド1. AIは「効率化ツール」ではなく、PR戦略の中核になる

2026年のPRトレンドを語る上で、「AI」を外すことはできません。
AIはもはや「使うか使わないか」を議論するフェーズを終え、「どう経営戦略に組み込むか」という段階に入っています。

AIはPR担当者を「代替」するのではなく「進化」させる

ただし、ここで強調しておきたいのは、AIはPR担当者を代替する存在ではないという点です。 

AIの得意領域: 調査、分析、コンテンツ生成、モニタリング、スピード対応

AIの苦手領域: 文脈判断、社会的空気感の読解、信頼関係の構築、危機時の最終判断

実務の視点で見ると、現時点でのAIには、まだ不得意領域があり、社会的な空気の読解、信頼関係の構築、危機時の最終判断は、依然として人間の役割です。
最適解は、AIと人間のハイブリッドだと考えています。

Microsoftが示す「戦略としてのAI」

この考え方を、企業戦略のレベルで明確に示しているのが Microsoft です。
同社はAIを単なる業務効率化のツールではなく、ビジネス戦略と価値創出のための基盤として位置づけ、戦略ロードマップやガバナンスの枠組みまで含めた指針を公開しています(*1)。

これはPRやブランディングにおいても、AIを「どう使うか」ではなく、「どんな思想のもとで使うか」が問われていることを示しています。

日本企業のPRにおいても、AIの活用は現実的なフェーズに入っています。
近年は、SNS分析やソーシャルリスニングをはじめとした領域で、選択肢となるツールが一気に増えました。世の中の空気の変化や話題の兆し、レピュテーションリスクの芽を早期に捉えることが可能になっています。

ただし、重要なのはツールを導入すること自体ではありません。
自社のPR課題に照らして、情報をどう読み取り、どう判断し、どう動くか。
その最終的な意思決定は、やはり人間が担うべき領域です。

 

トレンド2.「広く浅く」から「深く狭く」。鍵はパーソナライゼーション

二つ目のトレンドは、「パーソナライゼーション」です。

情報が溢れかえる今、無差別にプレスリリースを配信するだけでは、企業のメッセージはどこにも刺さらないでしょう。むしろ、「自分には関係ない情報を送り続ける企業」という印象を与えてしまうリスクすらあります。

「パレートの法則」を意識したファンづくり

これからのPRで重要になるのは、誰と関係を築きたいのかを明確にした上で、その人たちに最適化されたコミュニケーションを行うことです。
私が最近読んで強く共感した、佐藤尚之氏の著書『AIに選ばれ、ファンに愛される。』では、パレートの法則、つまり「2割のロイヤルカスタマーが8割の売上を生む」という構造が、AI時代においてさらに重要になると語られています。 

AI時代、資金力のある大企業はAIに選ばれるために巨額を投じることができます。その中で、中小企業やスタートアップが戦う術は、「熱量の高いファン」を作ることです。誰にでも好かれようとするのではなく、特定のステークホルダーに深く刺さる「パーソナライズされたコミュニケーション」こそが、ブランドの資産となるでしょう。

事例:日清食品の「現代的ノスタルジー」

パーソナライゼーションの好例として挙げられるのが日清食品のコミュニケーションです。この取り組みでは、『ワンピース』などの人気漫画シリーズに登場する象徴的なキャラクターたちを、現代の高校生活という設定で再解釈しています。

かつて作品に親しんだ世代にとっては懐かしく、同時に、若い世代にとっては「今の自分たちの物語」として受けとれる。
ノスタルジーと現代性を巧みに掛け合わせたストーリー設計により、世代を越えた共感、そして「これは自分のためのコンテンツだ」と感じさせる文脈作り。これこそが、このキャンペーンの大きな特徴です。

さらに、この世界観はインフルエンサーの協力によってソーシャルメディア上で拡張され、一過性の広告ではなく、語りたくなる体験として広がっていきました。その結果、カップヌードルは単なる商品を超え、カルチャーの一部として再認識される存在になったと言えるでしょう。

このキャンペーンは、「誰に、どんな感情で届くか」まで設計されたパーソナライズド・コミュニケーションの好例だと感じています(*2)。

広く浅く届けるのではなく、深く刺さる人にきちんと届く。
これが、2026年のPRの前提条件になっていくでしょう。

 

トレンド3. オーセンティシティ(本物感)と透明性が、信頼の起点になる

三つ目は、「オーセンティシティ(本物感)と透明性」です。

これは昨年から続くトレンドではありますが、2026年はより一層重要性が高まると感じています。

失敗もさらけ出す「インパーフェクト・ストーリーテリング」
成功談だけを並べたキラキラしたストーリーは、もはや共感を生みません。
むしろ、課題や失敗、迷いを含めた「不完全なストーリー」の方が、人の心を動かします。英語ではこれを「インパーフェクト・ストーリーテリング」と呼びます。

象徴的な事例として、私が以前に在籍していた Amazon の過去の対応をよく引き合いに出します。同社は、電子書籍版の『1984』などが権利上の問題を理由に、購入済みであったにもかかわらず利用者のKindle端末から削除され、大きな批判を受けました。

この対応について、当時のCEOであるジェフ・ベゾスは、利用者に向けたメールで正式に謝罪しています。その中で彼は自社の過ちを明確に認め、批判は当然だと述べています。
重要なのは、問題そのものよりも、企業トップが自らの言葉で過ちを認め、言い訳をせずに責任を引き受けたことです。この姿勢があったからこそ、事態はこれ以上の不信拡大を招かず、比較的早い段階で収束しました。

こうした「失敗をどう語るか」「どこまで正直に向き合うか」という判断こそ、オーセンティシティと透明性が問われるPRの本質だと私は考えています。
このとき、創業者が自らの判断の誤りを率直に認め、謝罪したことで、事態は比較的早く収束しました。このような「血の通ったコミュニケーション」は、現時点におけるAIには再現は難しいでしょう。

事例:ヤンマーホールディングスの「HANASAKA」

「本物感」を体現しているのがヤンマーホールディングスのリブランディング事例です(*3)。彼らは対外的な見え方を整える前に、創業の精神である「HANASAKA(人を咲かせる)」という価値観を、まずは社内(インナー)に浸透させることに注力しました。

世界規模でのワークショップ実施: 社員一人ひとりが「自分にとってのHANASAKA」を考える。

アナログとデジタルの融合: 現場社員には「HANASAKA BOOK」を、デジタル世代にはアプリを提供。

結果として、社員のエンゲージメントスコアが向上し、それが「YANMAR TOKYO」やアニメプロジェクトといった対外的なアウトプットにも一貫した「熱」として表れています。「内側の言葉」が本物であって初めて、外側の世界に響くのです。

 

トレンド4. リアルタイムで動けない企業は、信頼を失う

四つ目は、「リアルタイムのレピュテーション対応」です。

ソーシャルメディアの時代において、企業を取り巻くリスクは常に可視化されています。
炎上は山火事と似ています。初期段階で対応できれば被害は最小限に抑えられますが、後手に回れば取り返しがつきません。
だからこそ、兆しを早期に捉え、迅速に判断し、誠実に対応する体制が欠かせません。ここでも、AIによるモニタリングと、人間による判断の役割分担が重要になります。

 

トレンド5. パーパスドリブンコミュニケーションは「社内」から始まる

最後のトレンドは、パーパスドリブンコミュニケーションです。

これは外向きのPR以前に、社内でどれだけ本気で共有されているかが問われます。
すべてのトレンドの根底にあるのが「パーパス(存在意義)」です。

社員をエンパワーメントする

社員が信じていないパーパスは、必ず外部に見抜かれます。
インターナルコミュニケーションを疎かにしたまま発信されたメッセージは、以前にも紹介した「パーパスウォッシュ」(*4)と受けとられかねません。

かつてAStoryでも紹介した星野リゾート(*5)のように、優れたパーパス経営は、トップダウンの命令ではなく、社員の自律的な判断(エンパワーメント)を促します。 「何のために我々は存在するのか」という問いが共有されていれば、現場の社員はマニュアルがなくても最適な行動をとることができます。社員一人ひとりが自社のパーパスを語れる状態こそが、最強のPRです。

AI時代だからこそ、本物のパーパス、本物の行動が評価される。
2026年のPRは、その覚悟を企業に突きつけているように思います。

 

2026年、PRはどこへ向かうか

2026年のPRトレンドを貫く共通項は、テクニックではありません。AIという「最強の武器」を使いこなしながら、企業として、どう在りたいのか。どんな判断をするのか。
その姿勢そのものが、PRとして評価される時代に入っています。

AIで戦略と効率を最大化する。

人間力で共感と信頼を深める。

この両輪を回せる企業だけが、変化の激しい時代を生き抜き、愛されるブランドとして残り続けるのではないでしょうか。 AStoryでは、この新しい時代の潮流を捉え、皆様の「本物の物語」を紡ぐお手伝いをしていきます。

 

―― 著者情報 ――

小西 みさを
AStory合同会社代表/パーパス・ブランディング・コンサルタント。全省庁統一資格有資格者。

企業広報・ブランドコミュニケーション領域において30年以上の実務経験を持つ。
Amazon広報本部長として日本市場におけるブランド戦略統括や、ソフトバンク、セガなど上場企業での広報・海外広報経験を経て独立。MBA(英ウェールズ大)修了、Oxford Executive Leadership Programme修了。
株式会社NJS社外取締役、ヒューマンライフコード株式会社社外取締役、BS朝日放送番組審議委員、社内報アワード審査員。
【主な講演実績】新経済連盟/静岡銀行/Startup Hub Tokyo/沖縄県経営者協会 ほか多数。


 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。

ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

 

参考・引用元

*1:「Real AI value, real business impact」https://www.microsoft.com/en-us/ai/ai-business-value-and-benefits?utm_source=chatgpt.com

*2:「5 Japan Influencer Marketing Case Studies to Learn From」https://www.icrossborderjapan.com/en/blog/influencer-marketing/5-japan-influencer-marketing-case-studies-to-learn-from/?utm_source=chatgpt.com#2_Nissins_Hungry_Days_Campaign_Tap_Into_Nostalgia_with_a_Modern_Twist

*3:株式会社インターブランドジャパン「Japan Branding Awards 2024」https://www.interbrandjapan.com/wp-content/uploads/20250123_JBA2024_rls.pdf?utm_source=chatgpt.com

*4:「「パーパスはもう古い?」──今こそ問われる、真のパーパス経営とブランディングの実力」https://www.astorypr.com/news-all/is-purpose-branding-outdated

*5:「経営者は必読!人がやる気になる&育つための自社に問うべき質問10」内(5. 自社独自の人が育つ学習を促す仕組みはあるか?)https://www.astorypr.com/news-all/10-questions-to-ask-your-company-to-motivate-nurture-people

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