共感から共創の時代へ 〜2026年、企業が取り組むべき“ストーリーリビング”とは〜
こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。
今回は「ストーリーリビング」というテーマについてお話ししたいと思います。
マーケティングの領域では長らく「ストーリーテリング」が主流でしたが、ここ数年で多くの企業がストーリーテリングに本格的に取り組み始めており、私の周りでもその重要性を語る人が増えてきました。
しかし、今の時代——特に情報があふれ続ける現在の環境では、“語るだけ”では届かなくなってきている。その実感が強まっているように思います。
今回は、この“ストーリーリビング”という考え方を軸に、事例から「ユーザーと共につくるストーリー」の可能性について考えてみたいと思います。
ストーリーリビングが浮上した背景
いま、ステークホルダーはブランドに対して、ストーリーを“聞くだけの存在”でいることに満足しなくなってきています。
むしろ、
自ら体験したい
参加したい
一緒に何かをつくりたい(共創したい)
という欲求が確実に高まっているといわれています。
実際、グローバル・コミュニケーション・エージェンシーのエデルマン社が発表している「信頼を構築できたブランドのメリット」という調査でも、“信頼しているブランドの活動には、もっと自分も関与したい”と回答した生活者が非常に多いというデータが出ています。
つまり、情報が溢れ、あらゆるブランドが“ストーリー”を語るようになった今、生活者自身が「ただ聞くだけ」の関係では足りなくなってきている。
もっとブランドと“つながりたい”。
もっと“関わりたい”。
その中で生まれた流れこそが、「ストーリーテリング → ストーリーリビング」へのシフトです。
ストーリーリビングとは何か
では、“ストーリーリビング”とは具体的に何を指すのか。
筆者の理解では、ステークホルダーをストーリーの「傍観者」ではなく「参加者」に引き上げるための、体験創出のアプローチです。
ただメッセージを発信するのではなく、没入型・双方向の体験を通じて、生活者に“物語を生きてもらう”。
これがストーリーリビングの本質だと考えています。
そしてこれは、決して真新しい概念ではありません。すでに実践している企業も存在します。ただ、この「共創」や「体験」がブランドと生活者の間でより強く求められるようになり、その形が明確な言葉として浮上してきたのではないかと思います。
ストーリーリビングを体現する6つの事例
ここからは、私自身が「これはまさにストーリーリビングのエッセンスだな」と感じた6つの事例をご紹介します。
どれも、ブランドが一方的に“語る”のではなく、ステークホルダーが“参加しながら物語を生きる”仕掛けがある点が共通しています。
IKEA「SANDLÖPARE(サンドローパレ)コレクション」
最初の事例は、IKEAが展開している「サンドローパレ コレクション」です。
アフリカのサバンナをインスピレーションにしたシリーズで、可愛い動物のぬいぐるみや、サバンナの風景が描かれた収納アイテム、着せ替えできるスツールカバーなど、子どもたちが日常の遊びの中で自然や野生動物に関心を持つきっかけをつくるデザインになっています。
発売に合わせて「一緒に野生の動物を守ろう!」というドネーションキャンペーンも組まれていて、対象のぬいぐるみを購入すると、IKEAが代わりにWWFジャパンへ寄付を行う仕組みです。
私がストーリーリビングだと思うのは、
“買う”という日常行為を通じて、生活者自身が保全活動の共創者になる点です。
商品を手にした瞬間から、野生動物を守る物語の一部に参加している——
この体験構造が非常に秀逸だと感じています。
出典:IKEA https://www.ikea.com/jp/ja/newsroom/range-news/20251001-sandlopare-collection-pubd49c33d0/
グリーンリボンキャンペーン「Second Life Toys」プロジェクト
2つめは、移植医療の理解促進を目的にした「Second Life Toys」というプロジェクトです。
使われなくなったぬいぐるみを「ドナー」として募集し、壊れたぬいぐるみを移植手術のように修復する。修復に使われた側のぬいぐるみは、まるで新しい命をもらったかのように姿を変えて子どもの元に戻り、元の持ち主にはお礼の手紙が届く。
ただ修復されたぬいぐるみを企業が紹介するだけなら、それはストーリーテリングです。
しかし、このプロジェクトは、
生活者が“自分の大切なぬいぐるみを通して命の物語を体験する” 仕組みになっている。
自分の手で物語を進めていける——
この主体性が、まさにストーリーリビングだと思います。
出典:「Green Ribbon Campaign Secretariat "Second Life Toys"」https://dentsu-ho.com/en/articles/4765
Apple 「Today at Apple」
Appleの「Today at Apple」も、世界中のApple Storeで行われている参加型の企画として、以前から注目しています。
製品の説明会ではなく、アーティストとコラボレーションしながら創造性を探求したり、音楽をやフォトを試したりできる無料セッションで、現在、日本のApple StoreではNumber_i(ナンバーアイ)の新曲の世界を空間オーディオで体験するイベントが展開されています。
ブランド側が“自社の魅力”を語るのではなく、参加者自身がApple製品を通じて創造性を体験し、その中でブランドの世界観に触れていく。
ファンコミュニティが中心となって物語が広がっていく構造も、ストーリーリビング的だと感じます。
出典:Apple https://www.apple.com/jp/today/event/spotlight-spatial-experience-apac/7389092191177900032/?sn=R128
セクションL「ローカルクリエイター発掘プロジェクト」
4つ目は、AStoryとしてもご支援しているSection L社の事例です。
Section Lは、アパートメントホテルの運営を行うスタートアップで、ホテルづくりの中心に“体験”が据えられています。特に印象的なのは、その土地の文化や魅力をローカルクリエイターと共につくる“共創型”のアプローチです。
ホテル内のアートは単なる装飾ではなく、クリエイターの背景や地域文化の物語が宿泊体験に紐づくようにつくられています。
また「One-Day Map」という取り組みでは、スタッフ自身が歩いて選んだ“観光ガイドに載らないローカル”を紹介し、滞在者が街を“物語として体験できるように工夫しています。
金太郎飴のように均一化したホテルではなく、一室一室に物語があるホテル——
これはまさに、生活者とともに創るブランドの在り方ではないでしょうか。
出典:セクションL https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000085022.html
水星「泊まれる演劇」
同じホテルでも異なる切り口でストーリーリビングを感じさせるのが、株式会社水星が展開している「泊まれる演劇」です。
これは宿泊型のイマーシブシアターで、宿泊客が実際のホテルに滞在しながら物語を体験します。
ただ観るのではなく、宿泊客が物語の“当事者”になっていく。
チェックインした瞬間から、ゲストは作品の一部となり、ストーリーをともに進めていきます。
この企画ではホテルそのものが“物語の目的地”になっています。
没入型のストーリーを求める声が増えている今、日本でもこうした事例が登場してきていることに、とても示唆を感じる事例です。
出典:「泊まれる演劇」https://suisei-inc.com/project/tomareruengeki/
アマゾンジャパン:Kindle Fire ポップアップストア
最後に筆者がアマゾンジャパンに在籍時の事例も、今で言うストーリーリビング的なアプローチだったのでご紹介します。Kindle Fireというタブレット端末を発売した際、表参道に期間限定のポップアップストアをつくり、“Kindle Fireがある生活”そのものを体験できる場を展開しました。
空間は“家”をイメージして作り込み、例えばキッチンではレシピをKindle Fireで見ながら料理ができたり、リビングではKindle Fireの映像をテレビに飛ばして楽しむといった、実際の生活シーンを再現したキャンペーンです。
これもIKEAやAppleの事例と同様に、スペック説明ではなく、「この端末があると、こんな暮らしができる」という“生活者視点の物語”を体験してもらう。これが非常に大きなポイントでした。
当時は「ストーリーリビング」という言葉は使っていませんでしたが、生活者が“製品のある世界観をその場で生きる”という点で、まさに今語られている考え方と通じるものがあったと感じています。
まとめ
ここまでご紹介してきたように、ストーリーテリングの時代から、ブランドと生活者が“ともにストーリーをつくっていく”ストーリーリビングへと、時代は移行しています。
重要なのは、企業が大掛かりな施策を打つかどうかではありません。
むしろ、日々の事業活動、パーパス、バリュー、プロダクト開発、PR、顧客との接点——
こうしたひとつひとつが一貫していて、そこから生まれる体験が“嘘のない物語”として生活者に届いているかどうかです。
どれだけ素晴らしいイベントやキャンペーンを展開しても、企業の根幹にあるパーパスと事業活動そのものに整合性がなければ、生活者はすぐに違和感を察知します。
だからこそ、事業側とPR・ブランディング側が連携し、パーパスから逆算して体験を設計していくことが大切だと感じています。
そしてKPIの考え方も、これまでの「クリック数」「視聴率」といった量的指標だけでなく、共感度やエンゲージメントなどの“質”も問われるフェーズへ移っています。
生活者がどれだけそのブランドのストーリーに自分ごととして関わっているか。その深さこそが、これからのブランド価値を決めていくでしょう。
IKEAやApple、Section Lなど、ストーリーリビングの実践例は確実に広がっていると感じます。
こうした潮流を踏まえると、2026年は「ストーリーリビング」が大きなトレンドになっていくのではないかと私は考えています。
企業が語るのではなく、生活者とともに物語を生きる時代。
そして生活者と“共創する場”をどう設計していくかが、これからのブランドの競争力を左右していくのだろうと思います。
ストーリーリビングを実践していくために、自社のパーパスや価値観をどのように体験へ落とし込むべきか——
もし迷いがありましたら、いつでもご相談ください。
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