ユニクロが世界ブランドに初ランクイン― パーパス経営が導いた“信頼される成長”のかたち

こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。

ブランディングサービスを提供するインターブランドが発表した「グローバル・ブランドランキング2025」(*1)で、ユニクロが初のTOP100入りを果たしました。
自動車・電機以外の日本企業がランクインするという快挙となった今回の評価。その背景には、柳井正氏の哲学に根ざした「パーパス経営」の実践があります。

今回は、ユニクロがなぜ“信頼されるブランド”として世界に認められたのかを、最新の統合報告書から読み解きます。

*1:「インターブランド「BestGlobalBrands2025」レポート」https://www.interbrandjapan.com/wp-content/uploads/20251015_BGB2025_rls.pdf

 
 

グローバル・ブランドランキングとは

インターブランドが毎年発表する「Best Global Brands(グローバル・ブランドランキング)」は、世界の主要ブランドを対象に、ブランドが企業価値にもたらす影響を数値化・分析した指標です。

ランキングは「財務実績」「ブランドが購買選択に与える影響」「ブランドの将来性」の3要素をもとに算出し、単なる人気や広告規模では測れない“ブランドの経営資産としての価値”を明らかにします。

2025年版では、Apple、Microsoft、Amazonが上位を維持する一方、変化の波を象徴するNetflixやUber、Booking.com、Shopifyなどの新興ブランドがランクインしています。

 

ブランドを評価する基準

インターブランドのランキングは、売上や認知度だけでなく、そのブランドが社会にどんな価値を提供しているか――つまり「パーパス(存在意義)」を重視しています。

プレスリリースにはこう記されています。

 

「ブランド構築に向けた一つ一つのことを極めて高いレベルで遂行している」

 

これは、単なるマーケティングの巧拙を超え、社会課題の解決を自らの使命として体現している企業こそが“真のブランド”であるという宣言にほかなりません。

その視点で見ると、ユニクロが今回ランクインしたのは必然とも言えます。

同社の成長ストーリーは、まさに「パーパス経営」そのものだからです。

 

ユニクロの強さは「トップの言葉」にある

筆者がユニクロの統合報告書(*2)を読んで最も印象に残ったのは、柳井正会長兼社長のメッセージににじみ出る姿勢でした。
そこから私が強く感じたのは、「事業の拡大そのものを目的にするのではなく、社会への貢献と企業成長をどう結びつけていくか」を常に問い続けているということです。

柳井氏は統合報告書の中で、グループ全体が「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という理念のもと、“社会の課題を解決するビジネスを生み出す企業でありたい”という思いを語っています。その言葉からは、パーパス経営の根幹にある「社会に対して何を果たすか」という視点が、経営の中心に置かれていることが感じられます。

このようにトップ自らが存在意義を語り、社内外に浸透させていること。それこそが、ユニクロというブランドの価値を支える大きな要因だと思います。

*2「ファーストリテイリング統合報告書/アニュアルレポート2024年8月期―CEOからのメッセージ」https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/ar2024_03.pdf

 

「Peace for All」に見るパーパスの実践

ユニクロの社会的活動の中でも象徴的なのが、「Peace for All」プロジェクト(*3)です。「Peace for All」は世界中の著名人やアーティストがボランティアで参加し、オリジナルTシャツを制作、そしてその売上を寄付するというシンプルな仕組みですが、ここにユニクロの哲学が凝縮されています。

この活動から生まれた寄付金総額は、すでに25億円近く。数字の大きさもさることながら、世界の人々が「平和」という価値観を共有する輪をユニクロというブランドを通じて広げている点に、強い感銘を受けました。
企業の社会貢献には“戦略的CSR”という言葉もありますが、ユニクロの取り組みはそれを超え、パーパスそのものを体現する行動です。

理念を「語る」だけでなく「生きる」ブランドにする――まさにそのお手本と言えるでしょう。

*3:「PEACE FOR ALL」https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/peace-for-all/

 

「RE.UNIQLO STUDIO」が示す“循環するブランド”

もう一つ注目したいのが、服の修理・再生を行う「RE.UNIQLO STUDIO」(*4)です。

この取り組みは、世界62カ所で展開されており、リペア・リメイク・リユース・リサイクルを通じて服を“長く大切に使う文化”を育てています。
なかでも、リメイクサービスでは日本の伝統的な刺繍技術である「刺し子」が採用されており、単なる補修や補強の役割を超え、「SASHIKO」として海外の人々に受け入れられているようです。

一般的にファッション業界は大量生産・大量廃棄の構造から逃れにくい業界です。その中で、ユニクロが「長く着続けること」そのものを価値に変えているのは、事業と社会の両立を実現する、非常に本質的なブランディングだと感じます。
柳井氏の考え方を踏まえれば、“服を売るために服をつくるのではなく、世界を良くするために服をつくる”という姿勢が、ブランドの信頼を生み出しているのだと思います。 

*4:「RE.UNIQLO」https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/sustainability/planet/clothes_recycling/re-uniqlo/studio/

 

人を育てるブランドへ ― 人的資本経営の先駆者

さらに注目すべきは、ユニクロの「人」への投資です。

柳井氏は「今後の成長で最も重要なのは人材投資」と明言しています。女性管理職比率は46.1%(2024年8月期時点)で、2030年には50%を目指しており、グローバル社員比率も55.5%に達し、多様な人材が主役となる環境を整えています。

また、次世代リーダーを育てるための「UMC(ユニクロ・マネジメント・キャンディデート)」制度では、既に約500人が将来の経営幹部候補として育成されているそうです。

こうした「人の成長を企業の成長と同義にする姿勢」は、いま注目されている人的資本経営の実践そのもの。社会的信頼を高めるだけでなく、ブランドを持続的に進化させる原動力になっています。

 

柳井正の『一勝九敗』に学ぶ、失敗を恐れない文化

柳井氏の著書『一勝九敗』は有名ですが、ご本人は「実際は一勝九十九敗」と語っています。柳井氏の「繰り返し、失敗から学んで成長してきたことで今がある」という言葉は、まさに失敗のないところにイノベーションはないのだと、あらためて深く響きます。

インターブランドのグローバルCEO、ゴンサロ・ブルーホ氏は「破壊的変化こそがグローバルブランドを形作る決定的な力」と述べています(*1)。
確かにテクノロジーやAIの進化がブランドの勢力図を塗り替える時代、変化への対応力は不可欠です。

しかし筆者が感じるのは、ユニクロのように「理念の一貫性」を軸に進化を遂げている企業こそ、真に強いブランドだということです。
パーパスを羅針盤に持ち、失敗から学び続ける文化があるからこそ、グローバル市場で信頼を得ているのだと思います。

 

パーパスを「語る」だけでなく「生きる」ブランドへ

今回のランキングは単なる順位ではなく、ブランドがどれだけ社会から“信頼”されているかを示す通信簿のようなものです。
ユニクロの初ランクインは、日本企業がいま、「社会に対してどんな約束を果たしているか」が問われる時代に入ったことを示しています。

ブランドの価値は、広告や広報だけでは作れません。

トップの哲学と行動、そして社員一人ひとりの実践が社会と共鳴したとき、はじめて“ブランド”は信頼という形で評価されるのです。

パーパスは、絵に描いた餅ではなく「日々の意思決定を導く軸」。
ユニクロの姿勢から、私たち一人ひとりのブランドづくりにも多くの学びがあると感じます。

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