スピードと誠実さを両立するPRとは?— “PR Ethics and Agility”に学ぶブランドの信頼構築 —

こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。

今、企業広報やブランドコミュニケーションの現場では、「どれだけ俊敏に対応できるか」が問われる時代になりました。今回は、米国PR業界誌 PRNEWS に掲載された記事「PR Ethics and Agility: How to Practice Swift PR Without Losing Integrity(誠実さを失わずに迅速なPRを実践するには)」(*1)を考察します。この記事では、まさに現代のPR担当者や経営者が直面している“スピード”と“誠実さ”の両立がテーマになっています。

 
 

SHEINの失敗に見る「俊敏さの落とし穴」

記事の冒頭で紹介されているのは、2023年にファストファッション大手Shein(シーイン)が実施した「インフルエンサー工場見学キャンペーン」。Sheinは、自社の透明性を示そうと、インフルエンサーのグループを中国の「模範工場」と称する施設に招待しました。
このキャンペーンは、同社に向けられていた搾取的な労働環境への批判を払拭するために行われましたが、結果は「やらせだ」「ただのパフォーマンス」として大きな批判を浴び、Sheinに対する世論の不信感を深めただけでなく、関わったインフルエンサーたちの信頼性も損なう結果となりました。

この事例では「誠実さを欠いた俊敏さ」のPRは機能しないどころか、逆効果になるということを示しています。
この記事の筆者、ジョン・マッカートニー氏は、評判を守るために素早く対応しても、そこに倫理的な土台が欠けていると失敗に終わるという注意喚起をしています。
企業が「世間の流れにすばやく反応しなければ」と焦るあまり、“なぜ自社がその行動をとるのか”というパーパスを失ってしまうと、ブランドの信頼は揺らいでしまうのです。

 

「Ethical Agility」=倫理的俊敏性という考え方

マッカートニー氏はこのPR課題に対して「Ethical Agility(倫理的俊敏性)」という考えを提示しています。
それは、単に“早く動く”ことではなく、価値観と原則に基づいて素早く動ける状態をつくるという発想です。

【アジャイルPRとは】
変化の早い情報環境に合わせてメッセージを柔軟に調整すること。

【倫理的PRとは】
誠実さ・透明性・説明責任を大切にし、長期的な信頼を築くこと。

【Ethical Agilityとは】
この「アジャイルPR」と「倫理的PR」を融合させたアプローチのこと。
スピード×誠実さ=信頼の持続を実現するPRの在り方です。
俊敏なPRを支えるのは、スピードではなく倫理的な基盤です。誠実さが見えないPRは、一時的な注目を得ても、長期的な信頼にはつながりません。

 

スピードと誠実さを支える「3つの倫理軸」

マッカートニー氏は、PRにおける俊敏さを倫理と両立させるための3つの実践的な視点を挙げています。どれも日本企業にもそのまま当てはまる内容です。

  1. 一呼吸おいて原則を確認する(Pause for Principle)
    拙速に動く前に、「それは本当に企業の価値観と合っているか?」と立ち止まること。PRの現場では時間との戦いが常ですが、このわずかな熟慮が、信頼を守る最大の投資になります。

  2. 価値観をPR設計に埋め込む(Build Values into Your Playbook)
    日頃からブランドのトーンや行動規範を整理しておくことで、緊急時にもブレずに動けます。これはまさに「パーパスドリブン」な体制づくり。
    行動の指針を“事前に共有・明文化しておく”ことが、アジャイルPRを支えます。

  3. 多様な視点で判断する(Empower the Right Voices)
    緊急時ほど少人数で決めたくなってしまいますが、多様な視点を持つ人を意思決定に関与させることで、思わぬトーンミスや文化的誤解を防ぐことができます。
    スピードだけでなく、“社会的感度の高さ”も、これからのPRの重要な武器です。

 

スピードよりも「軸のある俊敏さ」を

SNSの炎上やAIによる情報拡散スピードが増す今、企業に求められるのは「速さ」だけではなく「軸の強さ」です。
Ethical Agilityとは、変化の波に翻弄されず、自社のパーパス(存在意義)を土台に迅速に動ける力ではないでしょうか。
AStoryも、クライアント企業が“誠実さを失わずにスピーディに伝えられる仕組み”を、これからも共に考えていきたいと思います。

参考記事:「パーパスブランディングとは?今、企業存続に必要な理由
企業が「信頼」で世界に勝つには ― 透明性と一貫性が未来を拓く―

 

アマゾンに見る「軸のあるアジャイルPR」

例えば、筆者が在籍していたアマゾンは、まさに「Ethical Agility」を体現している企業だと思います。同社は創業当初から一貫して「地球上で最もお客様を大切にする企業」というパーパスを掲げ、その軸をぶらすことなく、時代に即したPRを続けてきました。

メディア対応においても、単に「AIを導入しました」「ロボット技術を活用しています」といった点の話題だけで終わらせず、「なぜAIを強化するのか」「それが顧客体験にどんな意味をもたらすのか」という“意義”まで語っている点が特徴的です。

アマゾンが常に伝えてきたのは、「品揃え、価格、利便性をイノベーションで強化し、より正確にお客様が求める商品や情報を届ける」という姿勢。その土台があるからこそ、AI活用などの技術的発表も“企業の方向性とつながった自然なメッセージ”として社会に受け入れられています。

つまり、トレンドに合わせて発信するだけでなく、パーパスを基軸にした「なぜ今それを発信するのか」を常に明確にしているのです。
こうした一貫性こそ、アマゾンの広報活動が信頼を積み重ねてきた理由であり、まさに「倫理と俊敏性」を両立させたPRの好例だと感じます。

筆者自身も、広報の現場で長く仕事をしてきて感じるのは、トレンドワードを追うだけでは一過性の効果で終わってしまうということ。
ベースとなる理念や方向性を明確に持っているからこそ、アジャイルPRは真価を発揮する。
それはシンプルですが、時代が変わっても揺るがない広報の本質だと思います。

 

信頼を軸にしたPR戦略を共に

AStoryでは、パーパスを軸にした誠実なPR戦略構築を支援しています。
企業の「正しいスピード感」を共に考えたい方は、ぜひご相談ください。

*1 出典:PR NEWS「PR Ethics and Agility: How to Practice Swift PR Without Losing Integrity」https://www.prnewsonline.com/pr-ethics-and-agility-how-to-practice-swift-pr-without-losing-integrity/

 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。

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