AI時代のブランド戦略 — 可視性と信頼を守るパーパスブランディング —
こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。
今回は世界のPRトレンドを紹介するメディア「PRovoke Media」から、シンガポールで開催された 「APAC Summit 2025」のレポート記事(*1)をとりあげたいと思います。タイトルは「Rethinking Brand Visibility And Trust In The Age Of AI(AI時代におけるブランドの可視性と信頼の再考)」。PR会社エデルマンのリーダーたちが、生成AIや大規模言語モデル(LLM)がもたらすコミュニケーションの変化について語ったセッションの内容です。
記事を読みながら、私自身がパーパス・ブランディングの実務を通して感じている課題と強く重なる部分が多くありました。今回は、その要点を整理しつつ、私の視点から「これからのブランド可視性と信頼」を考えてみたいと思います。
ChatGPTに自分の会社について聞いてみた
この記事をきっかけに、私自身もChatGPTに「AStory合同会社の強みについて教えてください」と聞いてみました。すると、ちゃんと当社のホームページの内容を拾って回答してくれました。
例えば「豊富な実績と信頼性」「大企業の広報経験に基づく説得力」「幅広い業界対応力」「パーパスを重視したブランディングの強み」など、まさに弊社が普段発信していることをAIが要約して返してくれたのです。
「AStory合同会社についてどのような強みがあるか教えてください。」に対するChatGPTの回答
そのとき率直に思ったのは、「オウンドメディアをきちんとやってきて本当に良かったな」ということ。普段からAStoryのパーパスや強みを発信し続けていたからこそ、AIが正しく拾ってくれたのだと実感しました。
検索順位から「AIにどう表現されるか」へ
従来、私たちがブランドのオンライン露出を考えるとき、「検索順位を上げる」ことが重要でした。SEOや広告運用がその中心にあり、ユーザーはまずGoogleなどで検索し、表示されたページを訪れる──そんな流れが前提になっていました。
ところが生成AIが普及した今、多くの人は検索エンジンに打ち込む前にChatGPTや各社のAIアシスタントで情報を得ています。そのとき、AIが参照する情報のなかに自社の正しい姿がなければ、そもそも候補として登場しない。記事中の言葉を借りれば「ブランドリーダーはAIモデルにおいて可視化されなければならない」のです。
つまり、AIにどう取り込まれるかが可視性の分かれ道になります。自社が調べられたときに、AIがどんな情報を返すのかを知らないと、ブランドが誤って理解されたり、そもそも存在しないものとして扱われてしまうリスクがあるわけです。
私自身が試して安心したように、普段から正しい情報を発信していればAIはきちんと拾ってくれます。ただ、それは一度やれば終わりではなく、常に最新情報にアップデートしていくことも重要です。
Earned Mediaの重要性
記事ではエデルマンのDelicia Tan氏が「ペイドメディアからアーンドメディアに情報価値がシフトする」と言及しています。これは非常に納得のいく指摘です。
広告の性質を考えれば、広告のコピーをAIがそのまま引用する機会は少ないでしょう。AIが参照するのは、第三者によって生成された有機的な情報です。つまり、信頼性の高いメディア記事や権威ある専門家の発言、コミュニティでの会話、そして顧客の声などです。
だからこそ、PR活動の役割はますます大きくなります。単に広告を打つのではなく、第三者が「価値がある」と思ってとりあげてくれるような情報をどう提供していくか。これはまさにパーパス・ブランディングの肝とも言える部分です。
ブランド評価の新しい物差し
記事では、ブランドがAIにどう取り込まれるかを測る3つの視点が示されていました。
インクルージョン:AIの回答に登場するか(取り込まれるか)どうか
エリジビリティ:権威ある形で引用されているか
インパクト:その露出がブランドにどんな影響を与えるか
検索順位だけを見ていればよかった時代から、こうした新しい評価軸で自社を確認する必要があるわけです。少し難しく感じるかもしれませんが、広報担当者や経営者にとっては避けて通れないポイントだと思います。
パーパスから逆算したコミュニケーションを
私がこの記事から強く感じたのは、「AI時代になっても基本は変わらない」ということです。自社のパーパスを軸に、誰にどんなストーリーを届けたいのかを考え、それを継続的に発信し続けること。
そのうえで、AIに引用されやすい信頼できる情報源を意識することも必要です。権威ある媒体、専門家やコミュニティとの関係づくり。自社の存在を理解し、共感して語ってくれる仲間を増やしていくことが、AI時代の広報の核心になると思います。
AIは魔法ではなく、組織全体で向き合うもの
AI時代のPRはますます難しくなるなと、私自身、とても危機感を覚えます。生成AIを使いこなせば業務効率化やコスト削減などメリットが大きいものであることは事実ですが、ツールを導入するだけでは意味がなく、どう活用するかは人間の姿勢にかかっているからです。
特に注意すべきは、広報だけでAI活用を進めるのはリスクが大きいという点です。情報の正確さやブランドの一貫性を守るには、会社全体で「AIをどう活用するのか」というルールを整備しなければなりません。
例えば、AIを使ったコンテンツをどこまで公式な情報として扱うのか、誰が最終的な責任を持つのかといった合意がなければ、誤情報が広まったりブランドを傷つけたりする可能性もあります。
要は、組織全体でAI活用の成熟度を高め、ブランドをリスクにさらさない体制をつくることが大事なのです。
沈黙は最大のリスク
最後に示された警鐘も忘れてはいけません。AIが自動的に情報を生成する時代において、沈黙している企業は「存在しない」と同義です。
誤った情報や古い情報が残っていれば、それをAIが拾ってしまうからです。すると、せっかくの努力が水の泡になってしまいます。
以前に書いた「『パーパスはもう古い?』──今こそ問われる、真のパーパス経営とブランディングの実力」でも触れましたが、パーパス経営をしているのに、それを発信していない企業は少なくありません。それは大きな機会損失です。AIに正しい姿を伝えるためにも、常に情報をアップデートし続けることが不可欠です。
私が常々お伝えしているように、パーパスは掲げて終わりではなく、継続的に「行動」と「発信」を伴うものです。AI時代においては、その重要性がますます高まると確信しています。
まとめ
AI時代に必要なのは、
自社がAIに正しく可視化されることへのコミットメント
信頼できる情報源から引用されるためのPR活動
専門家やコミュニティとの関係づくりによる理解者の拡大
組織全体でAI活用の成熟度を高めること
結局のところ、やるべきことは「パーパスを起点とした継続的なコミュニケーション」です。AIは魔法ではなく、私たちの行動の結果を映し出す鏡のような存在です。
「正しく語り続けること」。これがAI時代にブランドが信頼を得て存在感を保つ唯一の道だと、改めて強く感じています。
AIが情報の入口になる今こそ、正しく伝え続けることが大切です。
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*1出典:「APAC Summit 2025: Rethinking Brand Visibility And Trust In The Age Of AI」https://www.provokemedia.com/latest/article/apac-summit-2025-rethinking-brand-visibility-and-trust-in-the-age-of-ai