センスメイキングとは?「伝える」から「腹落ち」へ——パーパスを浸透させる広報とKPI設計

こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。

最近、私が注目している経営理論のひとつに「センスメイキング(Sense-making)」があります。調べてみると「これは広報と非常に親和性が高い考え方なのではないか」と感じるようになりました。
今回は、このセンスメイキングという考え方を手がかりに、これからの企業広報、そしてパーパスを社内外に浸透させていくためのコミュニケーションについて考えてみたいと思います。

 
 
 
 

センスメイキングとは「正解なき世界を進むための地図づくり」

センスメイキングは、組織論研究者のカール・ワイクが提唱した概念です。

簡単に言えば、曖昧な状況に直面したとき、人はさまざまな手がかりを拾い、過去の経験や周囲との対話を通じて「いま何が起きているのか」を理解し、次の行動につなげていくという考え方です。

『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2026年10月号でも、「センスメイキング:リーダーは正解なき時代の『地図』をつくる」という特集が組まれています。そこではセンスメイキングを、正解のない世界を前進するための「地図をつくること」と表現しています(*1) 。

私は、この考え方を知ったとき、広報の仕事との共通点を強く感じました。

企業が「私たちはこういう会社です」「このような未来を目指します」と発信したとしても、そのメッセージの意味を最終的に決めるのは企業だけではありません。

受け手は、自分の経験や価値観、周囲から得た情報と照らし合わせながら、「この会社はこういう会社なのだ」と意味づけをしていきます。

つまり、発信したこと=伝わったこと、ではないのです。

 

パーパスは「掲げるもの」から「意味づけられるもの」へ

この点は、パーパス・ブランディングにも深く関係します。
パーパスは、企業がなぜ存在するのか、社会にどのような価値を提供したいのかを示すものです。
しかし、立派なパーパスを策定し、Webサイトや社内ポスターに掲載しただけでは、社員やステークホルダーの「腹落ち」にはつながりません。


経営が語っていることと、実際の意思決定や行動が一致しているのか。

自分たちの仕事と、そのパーパスがどうつながっているのか。

社員や顧客が疑問を感じたとき、企業はそれに耳を傾けているのか。


こうした一つひとつの経験を通して、初めて「この会社が言っていることは、こういう意味なのだ」と理解されていきます。
私は、パーパスが企業の「存在意義や思想」だとすれば、センスメイキングは、その意味をステークホルダーとともにつくり、納得や行動につなげていくプロセスと捉えると分かりやすいのではないかと思っています。

 

広報にセンスメイキングを取り入れる5つの視点

では、実際の広報活動にはどのように応用できるのでしょうか。私は、大きく5つのポイントがあると考えています。

 

1.「何を伝えるか」だけでなく「どう受け止められたか」を見る

これまでの広報では、企業として伝えたいキーメッセージを整理し、それを繰り返し発信することが重視されてきました。

もちろん、一貫したメッセージを発信し続けることは重要です。
しかし、それと同じくらい、発信した後に相手がどう受け止めたのかを見る必要があります。

問い合わせではどのような質問が多いのか。SNSではどんな言葉で語られているのか。メディアはどの部分に関心を示したのか。

こうした反応を見ながら、パーパスやメッセージの核そのものを変えるのではなく、相手に届くように「伝え方」を調整していく。

広報は、発信して終わりではなく、フィードバックを受けながら続いていくプロセスなのです。

 

2.「言っていること」と「やっていること」を一致させる

二つ目は、言行一致です。

例えば「地域との共生」を掲げている企業が、地域に大きな影響を与える事業について十分な説明をしていなければ、どれだけ立派なメッセージを発信しても納得してもらうことは難しいでしょう。

一方、企業が掲げる理念を実際の意思決定や行動で示し続ければ、「この会社なら、状況が変わってもこう判断するだろう」という認識が生まれてきます。

パタゴニアが「地球が唯一の株主」という考えを掲げ、2022年に所有権をPatagonia Purpose TrustとHoldfast Collectiveへ移したことは、その象徴的な例でしょう(*2)。

企業のストーリーは、言葉だけでは完成しません。行動こそが、最も強い広報になることがあります。

 

3.「伝える」だけでなく、対話から共通理解をつくる

三つ目は、対話です。

PRとは本来、企業が一方的に情報を発信する活動ではなく、組織と社会の双方にとって価値のある関係をつくるコミュニケーションプロセスです。

それは社内でも同じです。

例えば、社員エンゲージメント調査で「経営の考えが分からない」という回答が多かったとします。
その結果だけを見て施策を考えるのではなく、「どのような場面でそう感じたのか」「何が分からないのか」をさらに掘り下げる。最近ではAIとの対話を通じて社員自身が考えを言語化し、フィードバックを深掘りする方法もあります。

「経営が分からない」という漠然とした声を、「意思決定の背景が共有されていない」といった具体的な課題へ変換できれば、企業も次の行動を考えやすくなります。

こうした対話の積み重ねも、センスメイキングの一つの実践だと思います。

 

4.危機時こそ「分かっていること」と「分からないこと」を分ける

不祥事や事故などの危機が発生すると、人は限られた情報から「何が起きているのか」を理解しようとします。企業から十分な説明がなければ、その空白を憶測が埋めていきます。

だからこそ危機管理広報では、現在分かっている事実と、まだ確認できていないことを明確に分け、間違いがあれば訂正し、状況の変化に応じて情報を更新していくことが重要です。

2018年、米国のスターバックスで人種差別問題が起きた際、同社は米国内の直営店8,000店舗以上を一時閉店し、約17万5,000人を対象とした人種的偏見に関する研修を実施しました。(*3)

もちろん、問題を起こさないことが第一です。しかし問題が起きたとき、その後どう行動するかもまた、「この会社はどのような会社なのか」という意味づけにつながっていきます。

 

5.広報KPIを「露出量」から「理解と行動」へ

そして、私が広報実務において特に重要だと感じるのが、KPIの見直しです。

掲載件数、広告換算額、PV、インプレッション。
こうした「どれだけ露出したか」を測る指標は分かりやすく、決して不要ではありません。
しかし、センスメイキングの視点で考えると、本当に知りたいのはその先です。

相手は何を理解したのか。
企業に対する認識はどう変わったのか。
そして、どのような行動につながったのか。

例えば、

「この会社は顧客のことを本気で考えている」と認識されるようになったのか。

社員がパーパスと自分の仕事とのつながりを説明できるようになったのか。

発信をきっかけに問い合わせや採用応募、推奨、継続利用などの行動が生まれたのか。

こうした変化まで追うことで、広報活動が経営にどのような価値を生んでいるのかが、より見えやすくなります。
広報KPIは、「どれだけ伝えたか」から「どう理解され、何が変わったか」へ。

これからは、そんな視点がますます重要になるのではないでしょうか。

 

広報の役割は「情報を届けること」から「意味を共に創ること」へ

センスメイキングについて学びながら、私は、これからの広報にはこれまで以上に「聴く力」が求められると感じています。

企業が正しいメッセージをつくれば、正しく伝わる。そんな単純な時代ではありません。

私は、こうした企業とステークホルダーとの対話の積み重ねによって、お互いの理解が少しずつ深まっていくことも、センスメイキングの考え方のひとつではないかと捉えています。 
企業が一方的に「伝える」のではなく、相手がどう受け止めたのかを知り、その反応を次のコミュニケーションに生かしていく。
そのプロセスを繰り返すことが、結果として企業への理解や納得感につながっていくのではないでしょうか。

それはパーパス(パーパス経営、パーパスブランディング)も同じです。

パーパスを掲げて伝えるだけではなく、社員やステークホルダーがどう受け止め、どのように理解しているのかを知りながら、対話を重ねていく。 
そこまで含めて考えることが、これからのパーパス経営や広報において重要になっていくのではないでしょうか。そして、そのプロセスを支えることこそ、これからの広報の重要な役割ではないでしょうか。

AStoryでは、パーパスを起点とした広報戦略の設計から、ステークホルダーごとのコミュニケーション設計、広報活動のKPI策定・見直しまで、企業の課題に応じてご支援しています。

「広報活動を続けているが、露出件数やPV以外の成果をどう設計すべきか分からない」

「パーパスや理念が、本当に社内外に伝わっているのかを測りたい」

と感じている企業様は、ぜひ一度ご相談ください。

参考・引用元
*1:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「センスメイキング:リーダーは正解なき時代の「地図」をつくる」https://dhbr.diamond.jp/articles/-/14716

*2:patagonia「地球が私たちの唯一の株主」https://www.patagonia.jp/ownership/

*3:Starbucks Coffee Company「Starbucks to Close All Stores Nationwide for Racial-Bias Education on May 29」https://investor.starbucks.com/news/financial-releases/news-details/2018/Starbucks-to-Close-All-Stores-Nationwide-for-Racial-Bias-Education-onMay-29/

 
 

AStoryでは、アマゾンジャパンの黎明期から戦略的広報でブランド価値向上に貢献し、2015年には日経BP社「ブランド・ジャパン」調査においてブランド価値ランキング総合1位を獲得するまでのプロセスをリードしてきた代表小西の知見をもとに、パーパス・ブランディングの構築からPR戦略立案、広報人材の育成まで一貫してご支援しています。

AI時代において、「何を伝えるべきか」「どのように意味を設計するか」に悩まれている企業様も少なくありません。もし、自社の広報の役割や育成のあり方を見直したいとお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

 
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