産学官連携を成功に導く5つの法則|広報がつなぐ共創と持続の仕組み

こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。

地域活性化、観光振興、教育、医療、まちづくり——。社会課題が複雑になるなか、一つの組織だけでは解決することが難しいテーマが増えています。
そこで力を発揮するのが、行政、企業、大学・研究機関がそれぞれの強みを持ち寄る「産学官連携」です。
異なる知見や資源を組み合わせた産学官連携は、大きな可能性を秘めています。

その一方で、連携協定を結んだものの、その後の活動が停滞したり、いつの間にかフェードアウトしてしまったりするケースもあります。
最近、産学官連携に関するご相談をいただく機会があり、改めて様々な事例や資料を調べてみました。

では、産学官のプロジェクトを一過性の取り組みで終わらせず、社会に根づく活動へ育てていくには何が必要なのでしょうか。
今回は、広報・PRの視点も交えながら、私が大切だと考える5つの法則をご紹介します。

 
 
 
 

法則1|プロジェクトより先に「共通の未来像」を描く

まず大切なのは、「何をするのか」を決める前に、その取り組みによって、どのような地域や社会を実現したいのかを明確にすることです。

新しい技術を開発する、実証実験を行う、新しいサービスをつくる。こうした具体的な施策を決めることはもちろん必要です。しかし、それだけでは異なる組織が長期間にわたって協働するための軸にはなりません。


例えば「10年後、この地域をどのような場所にしたいのか」という未来像を描き、そこから逆算して、それぞれの役割や研究開発、事業、広報などのロードマップを考えていく。この順番が重要です。


科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」でも、「未来のありたい社会像」をビジョンとして掲げ、そこから逆算して研究開発と自立的・持続的な共創の仕組みを構築する考え方が採用されています。
ここでは「産学官共創」という言葉が使われていますが、将来像を共有し、そこから各主体の活動を設計するという考え方は、産学官連携にも共通するものです。

その一例が、横浜国立大学を中心とする「“健歩快働”をまちごと科学するイノベーティブ新湘南共創拠点」です。
ここでは「革新的ADLデータテクノロジーの創発・実装により“健歩快働”を実現する持続発展可能な“まち”をつくる」という拠点ビジョンを掲げています。「健歩快働」とは、高齢者になっても健やかに歩き、快活に働き続けられる状態を表した言葉です。


少し専門的な表現ではありますが、単に「DXで高齢者が健康に暮らせるまちをつくる」と言うより、この地域が何を目指しているのかが具体的です。


【広報・PRの視点】
広報に求められるのは、こうした未来像を、生活者が「自分たちの暮らしとどう関係するのか」を想像できる言葉やストーリーへ翻訳することだと思います。


 

法則2|役割・責任・意思決定のルールを明確にする

産学官連携が難しい理由の一つは、参加する組織によって文化や意思決定の基準が異なることです。

行政では公平性や説明責任が重視されます。
企業にはスピードや事業性が求められ、大学・研究機関では学術的な妥当性が重要になります。どれが正しい、間違っているという話ではありません。


問題は、違いがあることを前提にしないままプロジェクトを進めてしまうことです。

そのため、責任者、意思決定方法、予算、知的財産、情報公開の範囲、リスクが生じたときの対応などについて、できるだけ早い段階で整理しておく必要があります。

文部科学省・経済産業省の「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」でも、大学等と企業では使命や文化、求める成果、スピード感などが異なることを前提に、ビジョンやゴールの共有、連携責任者と窓口の明確化などの重要性が示されています。


【広報・PRの視点】

これは広報でも同じです。

誰が発表するのか。どこまで公開するのか。問題が起きたときには誰が説明するのか。複数の組織が関わるほど、事前の合意がなければ発信内容にずれが生じやすくなります。

さらに、広報を「プロジェクト開始時の発表」と「成果発表」だけで終わらせないことも重要です。
ロードマップの各段階で、いつ、誰に、何を伝えるのか。これも最初からプロジェクト設計に組み込んでおくことで、社会から理解されやすい活動になっていくと思います。


 

法則3|住民や利用者を「共創者」にする

特に公共空間、交通、観光、教育など、人々の暮らしに直接関わるプロジェクトでは、住民や利用者との関係づくりが欠かせません。


「このプロジェクトを始めます」

「このような成果が出ました」


それだけでは、住民から見れば「知らないところで何かが進んでいる」という”他人事”状態になってしまいます。
場合によっては「自分たちの街が勝手に変えられている」と受け取られるかもしれません。

だからこそ、できるだけ早い段階から、ワークショップやアンケート、意見交換会、実証実験などを通じて住民や利用者に参加してもらい、巻き込むことが大切です。


世界銀行も、官民連携(PPP:Public Private Partnership)のステークホルダー・コミュニケーションについて、プロジェクトの前・実施中・実施後を通じた継続的な対話が重要だとしています(世界銀行「Effective PPP stakeholder engagement」)。
 プロジェクトへの理解を促すだけでなく、ステークホルダーの意見を設計や実施へ取り込むことの重要性も指摘されています。


【広報・PRの視点】

広報は、完成した計画を一方的に知らせる仕事だけではありません。

対話の機会をつくり、受け手だった人をプロジェクトの当事者、そして共創者へと変えていく。

これも産学官連携における広報の大切な役割だと思います。


 

法則4|小さな成果を継続的に可視化する

産学官のプロジェクトには、10年、20年という長期構想もあります。
しかし、10年後の成果だけを語っていても、社会から見れば「本当に進んでいるのだろうか」と感じてしまいます。

そこで必要になるのが、途中にある小さな成果の可視化です。

実証実験の参加者数、参加企業数、利用者から得られた評価、課題の改善率など、ロードマップ上の短期的な成果を一つひとつ示すことで、「このプロジェクトによって社会が少しずつ変わっている」という実感を生み出すことができます。


【広報・PRの視点】

そして、広報で伝えたいのは成功した結果だけではありません。

 

何を試したのか。

何がうまくいかなかったのか。

そこから何を学び、どう改善したのか。

 

こうした挑戦のプロセスそのものがストーリーになります。

完成した成功事例だけを見せるより、試行錯誤しながら前に進んでいる姿を見せることで、プロジェクトへの理解や共感につながることもあります。
長期プロジェクトだからこそ、節目ごとの成果と過程を社会に共有し続けることが大切です。


 

法則5|補助金終了後も続く仕組みをつくる

最後は、持続可能性です。
産学官プロジェクトでは、公的な補助金や助成金を活用するケースも多いと思います。
しかし、支援期間が終了すると同時に活動も止まってしまっては、せっかく築いた成果やネットワークを十分に社会へ還元できません。

プロジェクトの途中になってから「終了後はどうするのか」を考えるのではなく、スタート時から誰が担い、どのように資金、人材、知見を循環させていくのかを考えておく必要があります。

その点で参考になるのが、山形県鶴岡市の「鶴岡バイオコミュニティ」です。


ここでは慶應義塾大学先端生命科学研究所をはじめとする研究教育機関と、そこで生まれた研究シーズをもとに設立されたバイオベンチャーなどが活動しています。
研究機関と企業だけで閉じるのではなく、地域を巻き込みながらエコシステムを形成し、研究成果を新たな産業へつなげようとしている点が特徴的です。


一つのプロジェクトで終わるのではなく、研究から企業が生まれ、そこに新しい人や知識、資金が集まり、さらに次の取り組みへつながっていく。
産学官連携を持続可能なものにするには、このような「循環」をどうつくるのかという発想が欠かせないと思います。


【広報・PRの視点】

そして広報も、その循環を支える存在です。

社会的な意義や成果を継続的に伝えていくことで、新しい参画企業や協賛者、投資家、人材などとの接点が生まれます。

つまり広報は、現在の活動を知らせるだけではなく、プロジェクトの次の担い手や支援者をつくる活動でもあるのです。


 

産学官連携の広報は「発信」だけではなく「関係をつくる仕事」

今回ご紹介した5つを整理すると、

 

  1. 共通の未来像を描く

  2. 役割・責任・意思決定ルールを明確にする

  3. 住民・利用者を共創者として巻き込む

  4. 小さな成果を継続的に可視化する

  5. 自立して続く仕組みをつくる

 

となります。

この中には、産学官連携や官民連携など、ほかの複数組織によるプロジェクトにも共通する考え方があります。
ただ、産学官連携では特に、異なる立場をつなぎながら「社会にとって何を実現するのか」を共有し続けることが重要だということです。

 

そして、そこに広報が果たせる役割は少なくありません。

 

未来像を社会に伝える。

組織間の認識をそろえる。

住民や利用者との対話をつくる。

挑戦の過程をストーリーとして残す。

そして、次の参加者へとつないでいく。

 

広報は、異なる立場の人たちが同じ未来を目指すための、共創の接点をつくる仕事なのだと思います。AStoryでは、産学官プロジェクトにおける広報戦略やメッセージ設計、情報発信、ステークホルダーとのコミュニケーションなどについてご相談を承っています。

「複数の組織が関わり、広報の進め方が難しい」

「社会や地域の人たちをどう巻き込めばよいのか分からない」

といった課題がありましたら、お気軽にお問い合わせください。

 
 

AStoryでは、アマゾンジャパンの黎明期から戦略的広報でブランド価値向上に貢献し、2015年には日経BP社「ブランド・ジャパン」調査においてブランド価値ランキング総合1位を獲得するまでのプロセスをリードしてきた代表小西の知見をもとに、パーパス・ブランディングの構築からPR戦略立案、広報人材の育成まで一貫してご支援しています。

AI時代において、「何を伝えるべきか」「どのように意味を設計するか」に悩まれている企業様も少なくありません。もし、自社の広報の役割や育成のあり方を見直したいとお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

 
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