社員から信頼される会社は強い。「まず社内から」始める広報
こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。
最近、企業の経営者や広報担当者の方からご相談を受けるなかで、広報に対する意識の変化を感じています。
これまでは、メディアにとり上げられたい、企業の認知度を高めたい、自社の取り組みを社外へ発信したいと、対外的な広報を強く意識する企業が多かったように思います。ところが最近は、「まずは社内だよね」と考える企業が増えてきました。
特にBtoB企業や組織規模の大きな企業では、中期経営計画やビジョンを掲げても、社員の受け止め方には濃淡がある。経営が目指す方向と、現場の日々の仕事がつながっていない。
そこに課題意識を持ち、インターナルPRやインターナルコミュニケーションを見直そうとする動きが広がっています。
私は、この変化をとても重要なものだと感じています。社内の人が信じていないことを、社外に向けて力強く発信することはできないからです。
「外からの信頼」の前に、「内側の信頼」が問われている
以前の記事「企業が「信頼」で世界に勝つには」では、「エデルマン・トラストバロメーター2025」(*1)を手がかりに、日本企業が社外のステークホルダーから信頼を得るためには、透明性、一貫性、継続性が重要であるとお伝えしました。
2026年版のテーマは「Trust Amid Insularity(閉鎖時代の信頼)」(*2)です。今回のレポートは、信頼の問題がさらに内側へ向かっていることを示しています。
世界では70%の人が、自分と異なる価値観、情報源、社会課題への向き合い方、文化的背景などを持つ人を「信頼しない、または信頼をためらう」と回答しました。日本では、その割合が89%に達しています(*3)。
多様な情報を比較しながら考えるより、自分が安心できる人や情報の範囲に閉じこもる。遠くにある制度や権威より、身近な人や組織を信頼する。世界で「信頼の内向き化」が進んでいるのです。
日本で唯一、信頼されている組織は「私の会社」
この傾向を象徴するのが、勤務先への信頼です。
世界平均では78%が「自分の勤務先は正しいことをすると信頼している」と回答しています。日本では62%で、世界平均を大きく下回るものの、企業一般47%、政府37%、NGO35%、メディア33%を上回り、調査対象のなかで唯一「信頼」の水準に入ったのが「私の会社」でした(*4)。
これは企業にとって追い風である一方、安心できる結果ではありません。日本の勤務先への信頼は28カ国中、韓国に次いで低く、前年からも2ポイント下がっています。
社会のさまざまな組織への信頼が低下するなかで、会社は社員にとって、最も身近で、数少ない信頼の拠点になり得ます。だからこそ、その信頼を当たり前だと思わず、維持し、育てていく必要があります。
価値観の違いは、すでに生産性の問題になっている
社員全員の価値観を同じにすることはできませんし、その必要もありません。しかし、違いを放置して分断にしてしまえば、組織の実行力に影響します。
日本では31%の社員が、「価値観の異なる上司のもとで働くより、部署を異動したほうがよい」と答えています。また23%は、政治的信念の異なるプロジェクトリーダーの成功を支援する努力を控えると回答しました(*5)。
これは単なる人間関係の問題ではありません。チームの協働、生産性、イノベーション、そして企業の成長に関わる経営課題です。
ここで重要になるのが、エデルマンが提唱する「Trust Brokering(信頼の仲介)」という考え方です。
これからの企業と広報に必要な「信頼の仲介」
信頼の仲介とは、異なる価値観や意見を、一つの考えに統一することではありません。それぞれに共通する利害を見いだし、ニーズや目標、置かれている状況を互いに理解できるように翻訳し、橋渡しする実践です。
これはまさに、これからの企業広報が担うべき役割だと思います。
広報の仕事は、ニュースを発表し、メディア掲載を獲得することだけではありません。経営者と社員、部門と部門、企業と顧客、地域社会、取引先、株主など、異なる立場や価値観を持つ人たちをつなぎ、企業の言葉と行動に”一貫性”をつくることも、広報の重要な役割です。
レポートでは、社員が分断ではなく共通点を意識できる企業文化を促進することが有効だと考える従業員は82%、異なる価値観を持つ人が協働するチームづくりは81%、対立下でも建設的な対話を行うための研修は80%にのぼりました(*6)。
「信頼の仲介」は、理念だけで実現するものではありません。組織の仕組みと、日々のコミュニケーションのなかに組み込む必要があります。
インターナルPRで取り組むべき3つのこと
① パーパスへの共感を育てる
まず大切なのは、社員がパーパスやビジョンを「理解する」だけでなく、自分の業務を通じて体感し、共感できる状態をつくることです。
会社が掲げる言葉と、実際の事業活動や評価の仕組みが結びついているか。社員一人ひとりが、自分の仕事がパーパスの実現にどう貢献しているかを語れるか。そこまで設計されて初めて、パーパスは社内で生きた共通言語になります。
② 信頼される理由を可視化する
次に、会社が信頼される理由を可視化することです。
経営判断の背景、顧客への責任、社員の声、失敗から何を学び、どう改善したのか。地域や取引先とどのような関係を築いているのか。都合のよい成果だけではなく、意思決定の過程や改善の実績まで継続的に伝えることが、透明性につながります。
③ 社員との対話を仕組みにする
そして三つ目は、「発信」だけでなく「聴く」ことです。
異なる意見に耳を傾け、対話し、その結果として事業や制度を変えたのであれば、変化まできちんと示す。社員アンケートや対話の場を設けても、会社が何も応えなければ、かえって不信を深めることがあります。
社会の風を感じながら、今どのような価値観や不安が生まれているのかを捉え、相手に応じたコミュニケーションを考え続ける。これは、AIだけでは代替しにくい、広報の重要な仕事だと思います。
社内の信頼が、社外への発信に説得力を与える
社員が企業のパーパスやビジョンに共感し、自分の言葉で社外に語る。社外に発信された内容を見た社員が、「この会社は言っていることと、やっていることが一致している」と、あらためて感じる。
この好循環をつくれる会社は強いと思います。
人的資本や無形資産の重要性が高まるなかで、人と組織の力は企業価値の源泉です。まず社内の信頼を育て、その信頼を社外へ広げていく。インターナルPRは、単なる社内報の制作や情報共有ではなく、企業の持続的な成長を支える経営活動なのです。
貴社の社員は、自社を「正しいことをする会社」だと信頼しているでしょうか。
そして、家族や知人に勧めたいと思える会社でしょうか。
AStoryでは、パーパスやビジョンの社内浸透、経営メッセージの整理、社内コンテンツや対話機会の設計など、企業の課題に応じたインターナルPRをご支援します。
社内の信頼を、企業の成長と社外からの信頼につながる力へ変えたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
参考・引用元
*1:「2025 Edelman Trust Barometer」https://www.edelman.com/sites/g/files/aatuss191/files/2025-01/2025%20Edelman%20Trust%20Barometer%20Global%20Report_01.23.25.pdf
*2:「2026 Edelman Trust Barometer Japan and Global Report.pdf」https://www.edelman.com/sites/g/files/aatuss191/files/jp/2026-05/2026%20Edelman%20Trust%20Barometer%20Japan%20and%20Global%20Report.pdf
*3:「2026 Edelman Trust Barometer Japan and Global Report.pdf」P.22-23
*4:「2026 Edelman Trust Barometer Japan and Global Report.pdf」P.6
*5:「2026 Edelman Trust Barometer Japan and Global Report.pdf」P.25
*6:「2026 Edelman Trust Barometer Japan and Global Report.pdf」P.40
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小西 みさを
AStory合同会社代表/パーパス・ブランディング・コンサルタント。全省庁統一資格有資格者。
企業広報・ブランドコミュニケーション領域において30年以上の実務経験を持つ。
Amazon広報本部長として日本市場におけるブランド戦略統括や、ソフトバンク、セガなど上場企業での広報・海外広報経験を経て独立。MBA(英ウェールズ大)修了、Oxford Executive Leadership Programme修了。株式会社NJS社外取締役、ヒューマンライフコード株式会社社外取締役、BS朝日放送番組審議委員、社内報アワード審査員。
【主な講演実績】
新経済連盟 / Startup Hub Tokyo(東京都主催)/岡山県/静岡県/徳島県/香川県/沖縄経営者協会/コクヨ/静岡銀行 / コニカミノルタ / 三菱UFJ/阪急阪神ホールディングス / 経営合理化協会/京都広報懇話会懇話、マーケティングセールスワールド/第一生命HD/東京海上 ほか多数。筆者の実績については下記をご覧ください。https://www.astorypr.com/company-overview
AStoryでは、アマゾンジャパンの黎明期から戦略的広報でブランド価値向上に貢献し、2015年には日経BP社「ブランド・ジャパン」調査においてブランド価値ランキング総合1位を獲得するまでのプロセスをリードしてきた代表小西の知見をもとに、パーパス・ブランディングの構築からPR戦略立案、広報人材の育成まで一貫してご支援しています。
AI時代において、「何を伝えるべきか」「どのように意味を設計するか」に悩まれている企業様も少なくありません。もし、自社の広報の役割や育成のあり方を見直したいとお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。