強いブランドを育てるために必要なこと

 

企業の広報担当の方は、経営陣や社員のメディア取材に立ち会うことが多いと思いますが、話す人によって内容やトーン&マナーが異なり、一貫したブランドイメージを保つのに苦労されていないでしょうか?

今回は拙書『アマゾンで学んだ!伝え方はストーリーが9割』から、強いブランドになるためにも重要な「広報方針」についてご紹介したいと思います。

 
 

アマゾン広報本部の信条「Tenets(テネッツ)」

拙著の第2章『「伝える」仕事のルール』では、アマゾンが「自分たちが何を大事な価値観として行動するのか」という行動指針について紹介しています。これをアマゾンでは「Tenets(テネッツ)」と呼んでおり、アマゾンの「パーパス(*1)」に基づき、各部署特有の活動に照らし合わせたTenetsが展開されています。

これはいわゆる「広報方針」となるものですが、皆さんにも是非作っていただきたいです。

新しく広報に配属された方や、対外的(もちろん社内向けにも重要です)に話し手となる会社の経営陣やスタッフが、メディアや様々なステークホルダーに話をする際、自社の姿勢やあるべき姿といったものを意識して発言することが、強いブランドを作ります。そしてこのことが最終的には法人の人格づくりに繋がるからです。

*1パーパスとは社会における企業の存在意義のこと(参考記事『パーパスブランディングとは?今、企業存続に必要な理由』)

 

アマゾンが情報発信の際に留意する広報方針とは

この、会社の人格づくり(=信頼づくり)をしていくためのコミュニケーションガイドライン、ルールといったものをアマゾンでは作っていました。
これはアマゾン特有のものではなく、例えばトヨタにもあります。最近のCMでも、企業としての姿勢を伺わせる内容を強く打ち出されています。

トヨタイムズ(CM動画)
https://www.youtube.com/watch?v=WvRThoeOokc

では、アマゾンではどのような広報方針を持っていたのか、代表的なものを6つご紹介します。

 

その1「お客様との信頼関係を築くこと」


優先順位はお客様の信頼を得続けること。信頼を損なうような事態に対して迅速に真摯に対応したり、未然に防いだり軽減したりしてお客様の長期的信頼を得るという意味。

最近、ある企業の広報担当者の方から、「とある取材で不勉強な記者がいて戸惑った。」というエピソードを伺いました。
業界紙の記者ではなかったりなど、時にはそういう記者の方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、取材時に目の前で話しているのは一記者ですが、その記者の”後ろ側”にいる社会の人々とコミュニケーションしていると思ってみてください。
仮にその記者が良く分かっていないという印象を話し手の広報担当者が受けたとしても、それをその人がちゃんと理解してもらえるようにコミュニケーションをすることが広報の役割なのです。

是非、未来のお客様に向けて、メディアとの信頼関係を構築し、その後ろ側にいらっしゃる読者や視聴者(=消費者)との信頼関係を築きましょう。

また、万が一自社の不安材料が世の中に出て、社会の人々に「あの会社、大丈夫かな」という疑念を長く続かせることは避けたいですよね。お客様が得た情報で、お客様が不安に思ってしまうような事態があれば、早く解決するように広報は努めなければなりません。そのためにも、自分たちの行動の優先順位をあらかじめ決めておくことが重要です。

 

その2「お客様を中心にコミュニケーションをとること」


「地球上で最もお客様を大切にする」企業であることがアマゾンのパーパスであり、コミュニケーションする際も常にお客様に注力することを忘れないという意味。

ビジネス誌が取材に来ても、テレビやウェブメディアであっても、どんなメディアでも必ずお客様目線で語るのがアマゾンの特徴です。
アマゾンでは一番のステークホルダーであるお客様を中心に考えているからです。アマゾンに都合がいい話ではなく、”お客様が聞きたい内容”を話すことに注力しています。

例えば、「アマゾンはEC業界ではNo.1だ。」と、自社では絶対言いません。事実であったとしても言わない方針です。そんなことを言ってもお客様は喜ばないからです。

アマゾンではメディアに対しても、(お客様に向けて)「◯◯を改善しました」「こういう視点で利便性を考えました」など、お客様に対して話しかけるようにコミュニケーションをしています。それが一貫性のある情報の伝達に繋がるからです。

 

その3「誠実であること」


自社に不都合なことをごまかすために誤解を招く、もしくは真実でないメッセージを発信することは、いかなるときもしないという意味。

「不都合なことをごまかすたようなメッセージを発信する」

これは隠蔽体質(不祥事)を起こす企業の特徴としてありがちです。
何かを隠蔽したり、嘘をついてごまかすなど、皆さん広報担当者であれば当然やってはいけないことと理解していると思いますが、企業自体がそのような誠実な体質になっていないと、広報担当者が経営陣や社内でキャッチした情報そのものが間違っているかもしれないですよね。

危機管理の時、現場の人に「何が起こったのか?」と経緯を確認した際、たまに担当者が「多分、たいしたことがはないと思う。」という発言をすることがあるのですが、それは自分を守るためかもしれないですし、客観性からは外れた個人の感覚で言っている可能性もあります。

誠実であるということは、「ファクト」をおさえるということが重要です。

「何が起こったのか?」「具体的にどんなインパクトがあるのか?」といったファクトだけをしっかり確認した上で、会社としてインパクトがあるのか、ないのかという経営者の判断が必要になってくるのですが、コミュニケーションを失敗してしまう企業は現場の人の緩い感覚をベースに判断してしまいがちです。それは不誠実な対応として世間に受け止められてしまう危険性があります。

“事実”をきちんとお伝えして、”事実”をベースに経営判断していくのが、アマゾンだけではなく皆さんの会社でも必要なことなのです。

 

その4「量より質を大事にすること」


お客様にとって意味のない、あるいはさほど重要ではない情報をださない。本当にお客様が気になることは何かを見極めて簡潔にコミュニケーションしましょうという意味。

広報のKPIを策定する際、多くの企業では掲載量などを軸としていると思いますが、掲載の”中身”を精査すべきです。
例えば、「自分たちが発信したかった内容がメディアの中で表現してもらえたか」は広報として注視すべきでしょう。

また、プレスリリースの数をKPIにする会社もありますが、これは要注意です。沢山リリースを打っているからといってメディアに紹介してもらえるというわけではないからです。

やはり数ではなく中身のあるプレスリリースを作るべきでしょう。
プレスリリースの数をKPIに入れてしまえば、無理して数合わせのためにリリースを打つという無意味なことをしてしまいかねません。これは受け取るメディア側への迷惑行為です。”チラシ”のようなプレスリリースを出してしまえば、本当に大事なプレスリリースを打つ時に、メディアに読んでもらえなくなります。

量よりも質を大事にする方法を探っていきましょう。

 

その5「まだ準備できていないのに情報発信するのは控えること」


開始時期が未定のサービスについて「将来的にこういうサービスが始まります」とメディアやお客様に知らせても、その情報は曖昧で不確定なものなので親切な情報とはいえないため、そういった発信は控えましょうという意味。

アマゾンでは「将来こういうサービスをやるよ」というリリースは基本しません。
例えばアマゾンの電子書籍サービス「Kindle」を世の中に発表した際も、お客様が買える状態になった段階でリリースを発信しました。

情報発信の基本は、お客様が情報を目にしたときに、すぐにサイトに行けば買える状態になっているタイミングです。
お客様にしてみれば、メディアを通じてそのリリースを知り、サイトにアクセスした際、その商品やサービス、イベントが「まだやってない」「情報が出ていない」「いつなのか分からない」という状況はフラストレーションを感じてしまいます。

これは機会ロスになりますし、お客様は何度もサイトに行かなければならなくなり、ブランドに対する印象は悪くなってしまうでしょう。
それを避けるためにも、お客様に何どもアクセスさせなければならないという不便や手間を起こさせない配慮が必要です。
エンドユーザーであるお客様に情報が伝わったら、すぐにアクションをとってもらえるような利便性を想像することが強いブランドにつながります。

ただ、日本の商習慣においては広報泣かせな側面もあります。日本のメディアは鮮度の高い情報を必要としているので、「発売しました。」という過去形のプレスリリースよりは、未来形のリリースの方が、価値が高いと思われているため、企業によってはこのような広報方針が適さないかもしれません。
アマゾンとしてはお客様の利便性を追求した結果の広報方針であり、情報発信のタイミングは各社によって様々でしょう。

いずれにしても、皆さんの商品やサービスを届ける相手に配慮することが重要です。

 

その6「公表しなくても良いことは公表しないこと」


お客様がアマゾンに対して抱く大きな関心事は何かを考え、その関心事に対して情報発信をしましょうという意味。

アマゾンでは「自分たちのノウハウにつながることは絶対話しをしない」ということを徹底しています。
記者からはアマゾン独自のシステムのことや、収益の仕組みに対する興味が尽きませんでしたが、アマゾンが徹底していたのは、「お客様が知りたいこと」。
広報的には難しい状況でしたが、当初は売上や販売個数、目標値などの数値は出しませんでした。

しかしそれでは当然、記者は困りますし、我々アマゾンの広報も困りましたが、あくまでも会社のスタンスとしては、「それはお客様の知りたい情報ではない。」と一貫していました。

なぜ言えないかの理由は、「お客様にとって良いサービスを提供して安く買えれば良く、そのためにアマゾンが何をしているかという情報は提供すべきだが、アマゾンがNo.1であろうがNo.2であろうが、それがお客様にとって恩恵を受けるものでない限りは関係のない話」だからです。

さらに、「他社についてはコメントしない」ということも徹底していました。アマゾン時代、記者から聞かれがちだった、宅配便サービスの業界や楽天、ヤフー、ZOZOなどの同業他社など、何に対しても自社以外のことは「何も言わない」のがアマゾンのスタンスでした。

理由を端的にいえば、それは「お客様を見てコミュニケーションしていない」からです。
アマゾンが真摯にいいサービスを開発して、それをしっかりと伝えることが広報のやるべきことというスタンスです。これはアマゾンが顧客に真摯でいる一つの証だと思っています。

他社を下げて自社の優位性をアピールしたところで、お客様からしてみれば、後味の悪さを感じてしまうことでしょう。アマゾンでは、「悪口を言っている間にもっとやることがあるだろう」という考え方だったのです。正に「地球上で最もお客様を大切にする」企業だからこそのスタンスでしょう。

 

トヨタの広報方針

後半の3つはアマゾンの特有性が強いものですが、このような広報上のルールを自社でも作っておくと、困った時に判断がしやすくなります。そして、そのルールを社内で徹底しておくことで、社員の誰が、誰に対して自社のことを話すときにおいて、一貫性のある内容になるのです。

アマゾンだけでなく、トヨタにも広報活動における方針を公開していたので、ご参考までにご紹介します。

「トヨタの行動指針-企業広報活動」
https://global.toyota/pages/global_toyota/company/vision-and-philosophy/code_of_conduct_001_jp_2.pdf

このように、広報方針はコミュニケーションをする全ての企業に持っていて欲しいと思います。
信条を社員全員が意識していると、どんな社員でも「さすが◯◯社ですね」という”法人格”での評価になり、強いブランドが育っていきます。

広報方針の作り方についてご興味のある方はお気軽にAStoryまでお問い合わせください。

 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。

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