メディアアプローチ戦略(上級者編)

 

「あの手この手でプレスリリースを配信してもメディアが見向きもしてくれない…」と、メディアアプローチに課題を感じているPRパーソンは多いのではないでしょうか。

以前、新人PRパーソン向けの記事(*1)に、メディアアプローチの第一歩としてメディア研究をする(メディアの役割や目的を理解する)ことを挙げましたが、今回はさらにステップアップした手法についてご紹介します。

*1:「新人PRが今から準備しておくべき5つのこと」
https://www.astorypr.com/news-all/5-things-new-pr-person-need-to-know

 
 

メディアアプローチをする前にすべきこと

「記者のファンになる」のがカギ

メディア研究から一歩進んで、メディアの中の記者に注目しましょう。例えば日本経済新聞(以下、日経新聞)はスタートアップ含めあらゆる企業がアプローチしたいメディアではないでしょうか。今回は日経新聞の記者の中から、当社のクライアントサポートや前職で接点のあった、業界に影響力のある記者の方々についてご紹介し、アプローチする上でのポイントやコツについてお伝えしていきます。

 

日経新聞の精鋭たち

村山恵一氏

カバーする分野:IT|スタートアップ|イノベーション経営

村山氏は約1500人(*2)いるといわれる日経記者のなかで、数名しかいないコメンテーター、いわゆる業界のご意見番の一人です。
前回の記事「新人広報が今持つべきPRツール」内でご紹介した著名記事『ChatGPT後の会社の姿は 社員の覚醒が競争力に』や『ChatGPT、脅威も生成 マイクロソフト「AI盟主」の賭け』(ともに会員限定記事)にある通り、IT系を幅広くカバーしています。村山氏の記者としての視点は常に新しくユニークで、ChatGPTのセキュリティ問題について、いち早く取材し記事化されました。

コメンテーターという立場をものともしない行動力があり、ベンチャーを含めた様々な取材実績があります。自社がイノベーションを通じて、社会・経済にインパクトを与えられるんだという自信がある企業であれば、無名の会社でも関心をもっていただけることでしょう。
IT系やスタートアップ企業の方々は、後述の「日経記者の探し方」から村山氏の記事を読んで、氏がどういった点に関心があるかを探ってみてください。

*2:日経新聞社LinkedInの概要より(https://jp.linkedin.com/company/nikkei

中村直文氏

カバーする分野:流通|マーケティング|個人消費

中村氏は日経MJの編集長を務めていた編集委員兼論説委員です。最近ではイトーヨーカ堂創業者でセブン&アイ・ホールディングス名誉会長の伊藤雅俊氏(故人)のリーダーシップについて書かれている記事『ためらいの天下人、イトーヨーカ堂創業者の「任せる力」』(会員限定記事)が意外性のあるリーダーシップを知ることになり経営者として非常に参考になりました。
記者の皆さんは知識が豊富ですが、中村氏の蓄積している取材の数や情報量は尋常ではないレベルだと思います。故に、ほかの媒体にも影響力のある記事を多く執筆されています。

アプローチのポイントとしては、「これから発売します」というものを紹介するより、”今の社会課題”につながるような「商品を開発したら密かに人気です」というような、知られていないけれど、あるコミュニティの中ではものすごく盛り上がっているという切り口があると、取材していただける機会につながると思います。

田中陽氏

カバーする分野:小売業|外食企業|流通行政|個人消費

田中氏は日経ビジネス編集委員などを経た編集局編集委員です。BSテレビ東京の「日経プラス10」の 解説キャスターも務めていらっしゃるのでご存じの方も多いかもしれません。
最近の著名記事『回転ずし迷惑動画が問う 「エアポケット」のジレンマ』(会員限定記事)では回転寿司のビジネスモデルの強みを「需要側と供給側の分離」と解き、それを「エアポケット」と表現したユーモアセンスのある氏の切り口は、社会に潜む問題について読者(経営者、起業家、関連事業者)に問いかけ、社会問題を解決する答え(企業からのアプローチ)を待っているかのようです。

アプローチの際は、貴社の企業としての在り方、それこそ「パーパス」が反映された社会に役立つ商品やサービスであれば、潮流の一部になるかもしれませんが記事化していただける可能性は大いにあると思います。そのためには田中氏だけでなく、記者の皆さんに理解と共感をしてもらえるような広報活動が前提として重要です。

奥平和行氏

カバーする分野:IT|自動車|スタートアップ

現在は日経新聞シリコンバレー支局の支局長を務める編集委員兼論説委員です。
ストレートに答えにくい内容にも臆せず切り込んでいく、切込隊長型の取材が特徴で、メタ(旧Facebook)CTOのインタビュー記事は非常に刺激的でした。
社会の媒介者である記者は、今人々が問題に思っているようなことや取材で得た情報を切り口にして記事化しています。彼らのインタビュー記事は取材を受ける側にとっても非常に学びが多いので、該当する業界のPRパーソンや取材を受ける立場の方々は日頃から著名記事を読み込んでおくことは大切です。

なお、テクノロジーを使ってサービス展開するような、スタートアップをはじめとした企業が日本からアメリカに進出する際は、奥平氏に「こういう社会課題を解決します」と宣言し、事業活動の進展を通じて興味を持っていただくことで取材機会につながる可能性は十分にあり得るでしょう。
取材対象となるには、記者の方々に企業のパーパスを理解し、共感していただけるような事業活動およびコミュニケーション活動を続けていくことが大事です。

 

近藤英次氏

カバーする分野:地域経済|行政|製造業

日経で30年以上のキャリアを持つ日本経済新聞地域報道センターのシニアライターです。日経記者として地方自治体や中央省庁、流通企業などで消費経済、製造業の民間企業を中心に取材されてきた方です。
現在は東京本社の地域報道センターで日経新聞朝刊・夕刊・電子版のほか、地方向けの専門誌・日経グローカルを担当されています。

近藤氏の記事は『シニアが自分の身を守るには? スポーツ感覚で護身術』や、出産・育休で出世コースから外れてしまう「マミートラック」問題を解決する企業を取材した『育休中のママボランティア支援 モグの稲田社長』(ともに会員限定記事)など、切り口が多種多様なのが特徴です。
アンテナを広範囲に張っていらっしゃるので、真に社会問題の解決につながるものであれば、PRパーソンの話を聞いてくれるはずです。

 

日経記者の探し方

日経新聞のサイトには「日本経済新聞の記者」という記者の一覧が確認できるページがあります。このページから貴社の事業に該当する業界の記者が探せます。

記者一覧には「担当分野で絞り込む」から該当カテゴリで絞り込めるほか、「フリーワード」でキーワードを指定して該当する記者を探すこともできます。
「詳しく見る」ボタンをクリックすれば、彼らの執筆記事がリストアップされているので、記事を読み込んだ上で、「自社の活動に関心を持っていただけるのでは」という形でアプローチしてみるのも手です。

記者の経歴欄には村山氏や中村氏のように、関心の対象を明示している記者もいますので、執筆記事だけでなくプロフィール欄もチェックしてみてください。

 

メディアアプローチをする上で注意すべきこと

今回ご紹介した記者はストレートニュースを書く記者ではなく、潮流を取材して分析する方々です。なので「我が社のプレスリリースを見てください」は控えましょう。
業界における潮流があって、自社においてその潮流に貢献している事業活動や実績があれば、アプローチしても話を聞いてくれる可能性はあるでしょう。

また彼らは日刊でストレートニュース(*3)を扱う記者ではなく遊軍的な立場です。記者自身の視点で社会や経済の潮流を取材・分析し、署名記事執筆や論説をします。ストレートニュース担当の現場記者とは役割が異なる記者もいて、彼らにもアプローチができるということ知っていただき、メディアアプローチに活かしてください。

*3:ストレートニュース=前日や当日に起こった事件や出来事を取り扱った速報の高い情報

 

プレスリリースで成果が出ない理由

PRは”能動的”に活動しないと成果につながりません。なかにはプレスリリースを流せばなんとかなると思っていらっしゃるPRパーソンもいますが、プレスリリースを書いて発信することはあくまでも”ルーティン活動”です。これを能動的に変えること、つまり、ターゲット(記者)をきちんと見定めて、情報をターゲットに合わせてカスタマイズして、そのターゲットといかにお互いのメリットを享受できるかを見極めてコミュニケーションをしないと突破口は開けないでしょう。
そして「どうすれば自社の活動が”潮流”にリンクするのだろうか」という視点を持つと取材してもらえる機会が広がるはずです。

 
 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。

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