インナーブランディングを疎かにした高級ブランドから学べること

 
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新型コロナウイルスが発生し、昨年は就職活動や採用活動に多大な影響がありました。この春、昨年の就職活動を経て入社された新入社員の方々は、期待と不安が入り混じっていることでしょう。そしてオンライン会議が急速に拡大し、リモートワークが新常識となって2年目の春でもあります。引き続きコミュニケーションが難しい環境下での新人広報教育を強いられている広報担当者の方も多いのではないでしょうか。

 今回は、そんな企業のブランディングに大きく関わる広報担当者の方々に向けて、マネジメントとしても重要な、新人広報にテクニックを身につけるより前に理解してもらう必要がある「インナーブランディング」についての話をしたいと思います。

 
 

インナーブランディングとは

「インナーブランディング」(またはインターナルブランディングとも呼ばれています)は、企業のミッションやビジョン、事業のゴールを従業員に理解浸透し、アクションさせるために行う啓蒙活動のことを意味しています。

このインナーブランディングの重要性は、「ブランドは資産である」ことを位置付けたブランド論の大家であり経営学者でもあるデイヴィット・アーカー(David Aaker)氏の言葉にもあります。

社員がそのブランドを信じて、すべての顧客接点においてそのブランドを実演しない限り、ブランドの約束は果たされない
— デイヴィット・アーカー

では、筆者がこのデイヴィット・アーカーの言葉を思い出させ、あらためてインナーブランディングの重要性について認識したある体験について次章でご紹介します。

 

「中の人」が自らブランドを傷つけた失敗事例

「心に残った顧客体験」とあれば、多くの方が素晴らしい体験を想像するでしょう。今回はそういった成功事例ではなく、ネガティブな事例となりますが、失敗事例から「インナーブランディング」がいかに重要かを説いていきたいと思います。

 昨年、筆者は海外の著名家具メーカーの日本支店で椅子をオーダーしました。その店では注文した家具が日本に届くまで約半年かかるとのことで、入荷次第連絡をいただけることになっていました。
しかしながら、半年が過ぎ、8カ月経ってもまだ連絡がこない。

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おかしいと思い問合せてみると、お店の方は「発注はしている」とのこと。
さらに、「(自身の携帯電話で)半年経ったぐらいに連絡はした。しかし、留守電メッセージは残さなかった」と説明。

当然ながら先方からご連絡があったと認識することはなく、その後もご連絡はいただいてない状況でした。

結局、自分から電話した際は、「発注した商品が現在どのような状況か」を調べてもらうことになり折り返しご連絡をいただけるとのことでしたが、1週間経っても折り返し連絡はきませんでした。

忘れられたのかと思い再度お店に連絡してみると、また、「電話はしたが、留守電は残さなかった」との対応。
しかも前回とは別のスタッフの方でした。日本に不慣れな外国人の方でもありません。

このブランドは完成度の高さとデザインの美しさで世界的に定評があり、その店構えから漂う一流さとは程遠い体験を2度もし、さすがに不安を覚えた筆者は、店長につないで欲しいと伝えると、折り返しご連絡をいただいたのは副店長でした。その副店長は何故このようなコミュニケーション不全が起きたのかの説明はなく、陳謝されるばかりでした。

この対応ではブランドイメージとは真逆の、同じように残念な体験をする人が出てくることでしょう。
信頼していたブランドでしたので大変残念に思い、社長に改善の要望メールをさせていただいたところ、そこで初めて店長(兼執行役員)からお電話をいただきました。それでも背景説明もなく唯々陳謝されました。

しかしながら、こちらとしてはただ謝ってほしいわけではありません。
どうしてこのようなことが起こるのか、また、どうすればこのような不備が起こらずに済むのかといった、原因と今後の対処について知りたかったのです。まだ商品が届いていない身としては本当に届くのか不安でいっぱいでした。

このような経緯があり、(なぜか)それから納品日がわりとすぐに決まりました(日本にもう届いていたのでしょうか…)。
コロナ禍のため事前にお断りしたものの、納品日には店長が直々に来訪されましたが、そこでも陳謝に終始。おまけに、事前に依頼していた古い家具の引き取りについても搬入業者に伝わっておらず、最期まですったもんだが繰り広げられてしまったのです。

この店長は引き取り家具の不備も陳謝しながら、最期に、

「今度店にお越しいただいた際は私を呼んでください。是非ブランドの話をしましょう」

と衝撃的なお誘いの言葉でこの一連の出来事に幕を閉じたのです。

届いた家具は期待を裏切らない一流のものでしたが、顧客体験としては非常に残念なものでした。

この失敗事例から、アーカー氏のいう「社員がそのブランドを“信じ”て、すべての顧客接点においてそのブランドを実演しない限り、ブランドの約束は果たされない」が真逆の形で実証されてしまったことがわかると思います。

会社(ブランド)が目指しているものを実現するために、その社員は何を実現しなければならないか?
今回の家具メーカーでは執行役員兼店長レベルの人でも理解されていないようでした。

ブランドがどんなに有名でも、誰もが憧れるようなハイブランドでも、このような顧客体験ではその店で購入することに不安を覚えるだけでなく、そのブランドに傷をつけることになるのです。

 

失敗しない仕組み

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失敗は誰でもあるものです。謝ることも大切ですが、それだけではブランドが守られるわけではありません。
アマゾンの創始者であるジェフ・ベゾスがよく言っていた言葉に「人は善意では変わらない」というものがあります。
その真意は、人は失敗を反省し、「二度としない」と誓っていても繰り返してしまうことがあるから、失敗できない仕組みを作ることが重要だということ。

 失敗事例として挙げさせていただいた家具メーカーでいうと、仕組みの欠如は以下のようなシーンにあります:

  • 当初見積もっていた納品予定が何故大幅に遅れたのか

  • 顧客本人に遅延連絡が不完全であった

  • 運送業者への情報共有ができなかったこと

総じて言えることは、顧客が安心するようなコミュニケーションとは何なのだろうか?という問いを立てなければならないということです。
繰り返しますが、失敗は誰でもあるものです。新入社員の皆様にも、失敗を恐れず果敢に仕事をしていただきたいと切に思います。
失敗してしまったら、改善策(仕組み)を持って再発しないようにする姿勢が見えれば、顧客からの信頼が再度芽生えることでしょう。

 

企業の成功に必要不可欠なもの ―コーポレートブランドパーソナリティ―

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インナーブランディングは「あなた自身がそのブランドになる」自覚を持たないといけません。
ブランドのフロントであるお店のスタッフはブランドを表現し、顧客にそのブランドを体感させる人達です。
アーカー氏の言葉を借りるなら、ブランドは資産であり、事の次第(今回のような)では「負債」にもなりえてしまいます。

商品やサービス、企業名そのものの認知を上げる施策に熱を入れる前に、今一度、ブランドのコンセプトや企業のビジョンやミッションを振り返り、このブランド(または企業)に世間はどんな信頼や共感を持っているのか、それを維持するために何をしなければならないのかを考える必要があります。
アップル(アルファベット)やグーグル、アマゾンといった企業は、彼らの成長に必要不可欠なものとして、そのブランドの在り方や具現化について注力してきました。(以前の記事「ブランド力を引き上げるコミュニケーション戦略」では、このインナーブランディングの効果をアマゾンの事例と手法とともにご紹介していますので併せてご覧いただければ幸いです。)

企業やブランドが、世間にある一定のイメージで認知されること、他社や他ブランドとは一線を画す個性で共感され、支持されていく過程で重視してほしいこととして「コーポレートブランドパーソナリティ」の創造があります。
詳細はまた別の機会でご紹介したいと思いますが、コーポレートブランドパーソナリティを簡単に説明すると、消費者が持つその企業の人格的な個性のことです。ブランドを擬人化したとき、どのような話し方をするのか、立ち居振る舞いはどうか、何が得意なのかといった個性を、企業の根幹であるビジョンやミッション、ブランドコンセプトに照らし合わせて創造することです。

ブランドを作る人、営業する人、販売する人、もちろん広報する人もその企業を経営する人も、自分たちがそのブランドに熱意を持ち、創造したパーソナリティを具現化し、繰り返し社内外の関係者(ステークホルダー)にコミュニケーションし、共感してもらうことで、コーポレートブランドが成長していきます。
そこにはインナーブランディングで社内に丹念に浸透させていくことが不可欠です。

インナーブランディングに有効な手段の一つに社内報があります。
社内報アワードの主催者である浪木克文氏によると、アワードの応募企業が年々増えている理由として、経営理念の浸透、社内の一体感の醸成などが社内広報の効果として実感されてきているようです。(ちなみに、社内報アワードに応募するだけでも多くのフィードバックがもらえ、その後の社内報に活かせるイベントですので、社内報を作っている企業の方は是非応募してみてください。)

 

共感を醸成するコミュニケーション

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新人広報の皆様はその企業やブランドに共感しているからこそ入社されたと思います。
広報職であるなら尚更、入社早々その共感を社外に発信したい思いで溢れているのではないでしょうか。

でもその前に一呼吸です。社外に発信する前に社内での一貫性がとれていないと、ブランドが消費者に表明していることと消費者が実際に体験することが全く違うということになりかねません。BtoC企業なら尚のこと、すぐに世間に露呈してしまうので慎重になりましょう。

片や新人を教育する担当部署の上司や人事は、新入社員を採用したからには一貫性のあるブランドイメージをしっかり醸成しないと、せっかく採用した素晴らしい人材も、「期待していたブランドパーソナリティと違う」ということになり、早々に離職してしまうリスクに繋がってしまいます。
是非、共感を呼ぶコミュニケーションに注力してください。

共感を呼ぶコミュニケーションについては、マーケティングやPRを初めて間もない人を対象に、「宣伝会議5月号」に寄稿しましたので、こちらもご覧いただければ幸いです。(共感を呼ぶ秀逸事例として企業のほか、フワちゃんの秀逸さについても言及しています)

 

最期に

新入社員だろうが役職者であろうが関係ありません。
「共感を呼ぶコミュニケーション」は従業員の皆が実現してくれないとブランドはできないのです。皆さんの力でブランドをより大きく、強固に育てていきましょう。

 

AStoryでは日本最大のブランド価値評価調査でアマゾン ジャパンを1位に導いたノウハウやインナーブランディングの一環であるパーパスブランディングの構築支援をしています。ご興味のある方はお気軽にコチラへお問い合わせください。