スタートアップ広報が新規上場時に押さえるべき4つのポイント

 
AdobeStock_232015840.jpg

2020年を振り返ると、IPO(株式公開/Initial Public Offeringの略称)の数はリーマンショックのあった2008年以降で最多の上場数でした。Covid-19の世界的な影響が今なお続く2021年においても、DX(デジタル・トランスフォーメーション)分野の企業を中心に引き続き活況を呈するようです。

今回は、スタートアップはもちろん、企業広報を長年ご担当されている方でも経験することが少ない、上場前後のコミュニケーションで押さえてほしい4つのポイントをお伝えしたいと思います。

 
 

その1・はじめてのIPO!上場前にすべきこと

新規上場において広報がすることに、プレスリリースや公式サイトへIRページを追加することなどを思い浮かべる方が多いと思います。スタートアップには兼任広報という方も多く、カリスマ経営者のスピーディな采配に追われながら、なんとかプレスリリースとIR(Investor Relations:投資家に向けた広報活動)ページの公開をしたという経験者もいらっしゃるのではないでしょうか。

それも間違いではないのですが、それ以前にすべき重要なことが広報にはあります。
それは何か?

それはずばり、「社内の情報管理」です。

株式を公開するということは、プライベートカンパニーからより広い世間の目に晒されるパブリックカンパニーになるということです。知名度が飛躍的に向上する分、上場した企業の一挙手一投足が株価に影響します。もちろん、社会的信用力も強く求められますよね。

そのため、上場”前”に社内向けのコミュニケーションがしっかり整理されていないと、上場後、様々なリスクに直面してしまう可能性が高いのです。これはガバナンスの一環として重要な準備になります。

例えば、上場の前と後の従業員の意識が変わっていない企業であれば、非公開情報が漏れてしまうことで起こるインサイダー取引リスクがあります。また、経営者自身がSNSで発信したことが、それとは別に広報が企業の公式見解として発表した内容と異なることで、双方共に信用を失くすリスクもあります。

だからこそ、まずは広報で「何を言って良いか、何を言ってはいけないか」といったルールを決め、社内の統制をとっておくことが肝要です。

このルール化を徹底しないまま、対外的なコミュニケーションを始めるのはとても危険です。上場を計画されているなら、日頃から行動規範を全社員で徹底するなどの社内の情報管理(ルール化)から始めてみましょう。

 

その2・社会の共感を得るために必要な上場前のコミュニケーション戦略

上場となれば、IR部門との連携も強めなければなりません。そして IRだけでなく、対外的にコミュニケーションをする可能性がある部署や人との連携も必要です。ここでいう連携とは、「コミュニケーション戦略のすり合わせ」です。

IRもPRも、社会において上場企業の存在意義を理解してもらうことが大前提ですが、持続的な成長戦略を描くこと、そのための個々の事業戦略を語るストーリーを作ることが重要です。

IRというと、数値ばかりが注目されますが、業界内だけのインパクトを発信することは、社会的なインパクトにはなりません。

コミュニケーション戦略の目的は、社会の「共感」を得ることです。

投資家をはじめとした様々なステークホルダーから共感を得られる存在意義や事業戦略を語るストーリーを作り込み、あらゆるチャネルでそれらのストーリーを伝え続けることで、刷り込み効果が生まれやすくなります。

上場する際の経営者によるプレゼンテーションのほか、プレスリリースや公式サイトでの情報にストーリーが盛り込まれていなければ、共感を得る接点が減ります。

共感を得るためのコミュニケーション戦略では、下記をメッセージにしっかり盛り込む必要があります。

  1. 私たちは何を目指している会社か(ビジョン)?

  2. ビジョンを達成するためにどんなミッションを背負って事業を展開しているか?

  3. どんな課題解決をしようとしているか(存在意義)?

  4. ビジョン・ミッションを達成するためにどのような成長戦略(=自分たちが目指す世界や未来の姿・ストーリー)があるか?

4については具体的に話せないこともあるでしょう。その場合であっても、戦略の柱くらいは伝えることが大事です。

私は様々な企業の決算説明会に伺う機会がありますが、残念なケースとして「売上が○○%上がりました」「業界ナンバー1を目指します」というような、数字だけの発表に終始している企業があります。数字はもちろん大事なのですが、せっかく御社に興味をもち集まった方々に、継続して株主でいていただくための“共感”メッセージになっていないのです。

これは上場後のコミュニケーションでも共通することですが、上述した4つの説明がないと、株主にしてみれば、そもそもなぜその企業の株主でいるのかという疑念が生じてくるでしょう。

 

その3・PESO上の多重人格に気をつける

いざ上場となった際は、数年前から提唱されているPESOメディアを活用したコミュニケーション戦略でその相乗効果(=情報拡散)を狙いましょう。

PESOメディアとは、P(Paid Media[広告])、E(Earned Media[パブリシティ])、S(Shared Media[SNS])、O(Owned Media[自社メディア])のことです。

生活者の意識やテクノロジーの進化により、メディアもかつての4大マスメディアだけではなく、より多様なセグメントでコミュニケーションをする時代ですね。

 

コミュニケーションするどのメディアにおいても、一貫性のある情報発信を心掛けてください。

そして、どのチャネルから見られていても、同じ会社の人格(アイデンティティ)であることを世間に認識してもらうよう気をつける必要があります。

世間の皆さんがどのチャネルから見ても、その企業が同じ人格の会社であることが認識できるということ、つまり、ブレのない一貫したストーリーやメッセージであるということは、そこに共感を持った支持者が増え、次第にブランディングへと繋がります。

 

また、メディア対応に慣れていないサービス精神が旺盛な社長にありがちな例として、取材で聞かれたことに何でも無防備に答えてしまうというケースがあります。上場したことで、それまでまったくご縁のなかったメディアからも注目されれば、余計に「聞かれたことには答えなければならない」という意識が動いてしまうのも無理はありません。しかしながら、メディア対応にも冷静なPR戦略が必要です。決して無防備であってはならないのです。自分たちがどういう見られ方をしたいのかをきちんと練った上で、そこから逆算した一貫性のある情報発信をしましょう。

 

そしてそれは、メディアや投資家向けのものとしてだけではなく、日常において、一般の方にも一貫していること、齟齬のないコミュニケーションを全方位にしていることが重要です。

私もAmazon在籍時代にそのようにしてAmazonのアイデンティティを確立し、ブランド価値を上げてきました。
※関連記事「AMAZONがブランド・ジャパンで1位を獲得するまで

 

その4・上場後のメリットを把握する

上場するとメディアからの注目度が上がります。

それはとても有益なチャンスです。上場したからこそ得られるメリットですね。そのメリットを最大限活かすために下記の3つを常に念頭に置き、コミュニケーションをしてください。

 

  • 「存在意義」

“パーパス(存在意義)”を盛り込んだメッセージを発信しましょう。
※パーパスについてはこちらの記事をご覧ください

上場するとメディアからの注目度が上がると申し上げましたが、メディアは別に”上場した”からその企業に注目しているわけではありません。上場というかたちで生まれた、世の中にチャレンジャーとして何かしらの貢献をしていく会社だから注目しているのです。その「何かしら」=どんな社会変革にチャレンジしているのか、を存在意義として伝えることで、メディアの関心度も高まります。

  • 「ストーリー」

    ファクトやデータだけのコンテンツは控えましょう。

 データももちろん必要ですが、そのデータにもストーリー性がなければ共感が生まれません。「面白い」「誰かに話したい」と思えるようなメッセージがないと、インパクトのある数字であっても共感は生まれません。まずは、会社がどのような思い(ストーリー)を持って創業したのか、または、ロゴに込めた思い(ストーリー)などの”ストーリー”作りから着手してみましょう。

  • 「イノベーション」

    あなたの会社のイノベーション(課題解決)について話しましょう。

 イノベーション=IT革新だけでなく、課題解決もイノベーションです。今までに解決できていないことや新たな時代に生まれた課題を何らかの方法で解決するための新たな施策です。メディア側から見ると、イノベーションがなければ取り上げる意味がありません。上場したことやビジネスモデルを1回は取り上げても、それ以降のイノベーションが見えないと、継続して注目はされません。

上場するときはフォーマットが決まっていることが多いですが、上場以降のプレスリリースは上記3つのポイントをしっかりカバーしましょう。

IPOは会社にとって非常に重要なターニングポイントとなります。その機会をより共感を呼ぶようなコミュニケーション活動のきっかけとして活かしていただければ幸いです。

 

AStoryではベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。ご興味のある方はお気軽にコチラへお問い合わせください。