選ばれるピッチの心得

昨今、ベンチャー企業やスタートアップ事業を創出するためのコンテストや支援事業が盛んです。先日、私もクライアント様が参加する某ピッチバトルを拝見しに行ってまいりました。

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登壇者は3分間のなかで、自社のビジネスモデルやイノベーションが市場における課題にどのようなソリューションをもたらすかなどを発表します。2分が経過するとBGMが流れ始め、ピッチ終了時間に近づくにつれ、音楽がどんどん大きくなるので、スピーカーはこの上ないプレッシャーのなかでプレゼンをすることになります。つまり、非常に高度なテクニックと度胸を求められるのがピッチなのです。登壇者の皆さんはこの3分間でオーディエンスに面白くないと判断されれば利用・支援されない、つまり飛躍のためのチャンスを掴めないので、この日のためにピッチの猛特訓をして臨むわけです。

 

選ばれる人のピッチ

今回ピッチコンテストの審査をするなかで、審査員から評価されていたプレゼンターの方々には次の4つの特徴がありました。

  1. 準備をしっかりしている

  2.  ポイントを押さえている

  3.  ポージングを活用している

  4.  発声が良い

1の準備については、参加者のすべてが当然されていることと思いますが、たった3分のなかで、審査員の心に響く内容をコンパクトに分かりやすく伝えるのは至難の業です。それに加え、終盤は次第に大音量になっていくBGMがスピーカー(登壇者)を焦らせるので、スピーチが飛んだり早口になってしまったりしがちです。だからこそ、入念な練習という準備が効いてくるのです。

そして2のポイントを抑えたプレゼンとは、あれこれ盛り込まずに、短い時間のなかで的確に伝えているということ。プレゼンなので、できるだけアピールしたい気持ちは理解できますが、情報を詰め込むだけ詰め込んでしまい、結果、終始早送りで聞いているような、よく聞き取れないスピーカーもいらっしゃいました。ピッチは必ずしも、限られた時間のなかで全てを伝えることがマストではなく、「もっと話を聞きたい。」つまり、次のアポイントに繋げたいと思わせる匙加減も必要だと思います。

3のポージング(間をとること)は、前回の記事でも小泉進次郎さんが絶妙な間をとって聴衆を引き込む術について言及しましたが、間は効果的に伝え、注意を引く手法として有効です。例えば、「私たちの○○によって、皆さんの通勤時間が大幅に短縮されます。そうなった世界を思い浮かべてみてください。どうですか?」といった問いかけの後に、ポーズ(間)をとることで、聞き手はその便利で快適な世界を思い浮かべ、このスピーカーの次に続く話をポジティブに受け入れる態勢ができるのです。今回のプレゼン上位者はこのポージングが非常に巧く、オーディエンスに問いかけながら集中を切らさないようにしていました。

4は意外に重要です。ステージの規模は様々ですが、会場の隅々にまで通る声の出し方をしっかり訓練していたな、と感じる人のプレゼンは好意的に受け止められています。声の出し方やトーンが聞いてもらいやすい声というのは非常に有利です。声だけでなく、プレゼンが上手な人は、スピーチに抑揚がありリズミカルです。

これらはもちろん大前提として事業内容に新奇性や成長性がある上での評価ポイントです。そもそもピッチバトルに参加されるほどの起業家が集まるので、皆、その内容には甲乙つけがたいものがあります。だからこそ、「伝え方」の技術は選ばれるか否かを左右する重要なものになります。

 

残念なピッチ

内容は良かったのに、プレゼン技術が未熟で残念ながら選ばれなかった企業の特徴には次の2点が挙げられます。

  • 専門用語ばかりで不明瞭

  • クロージングトークがない

理系の学生によるプレゼンで印象的だったのですが、専門用語のオンパレードで、「とにかくよく分からないけど、とにかく凄いのだろう…」という感想にしか至らなかったことが残念でした。ピッチコンテストに参加するにあたって、参加者がどこをターゲットにするかも重要です。主催団体が業界を特定したものでなく、また、オーディエンスがスペシャリストを配したものでない場合は、ハイレベルな内容は理解されず、そのテクノロジーが世の中にもたらすメリットが伝わらずに終わります。非常に損なので、幅広く受け入れられるためには難解な専門用語は簡潔に伝わるよう心を砕くことも時に必要です。

また、ピッチバトルには基本的に投資家に投資してもらうことや、提携パートナーとして選んでもらう、商談に繋げるなどの目的があります。ピッチ終了のカウントダウンが始まるや否や、指定時間内に収めようとワーッと話して「…以上で終わります。」では非常に勿体ないのです。最後はプレゼンをまとめ、「是非使ってみてください。」「ご質問があれば是非お話ししましょう。」など、聞き手側にして欲しいアクションを促す一言が欲しいところです。大切なのは、クロージングで聞き手に行動を起こさせる”一押し”をすることです。

 

これからピッチバトルに参加する起業家の皆様にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

AStoryではメディアトレーニングをはじめとした、スピーカーのサポートも実施しております。ご興味のある方はお気軽にコチラへお問い合わせください。