イベントマーケティングの成果を変える「クローズドイベント」とは?──App Growth Summitに学ぶ
こんにちは。パーパス・ブランディング・コンサルタントの小西です。
先日、アプリマーケティング領域の国際イベント「App Growth Summit(以下、AGS)」(*1)に参加しました。
このイベントは、AStoryがPRアドバイザリーとして関わっているリバティーンズ株式会社が、日本市場に持ち込み、タイトルスポンサーとして開催しているクローズドイベント(招待制・限定参加型)です。
リバティーンズは、アプリマーケティング業界において確固たるポジションを築いてきた企業であり、Appleが提供する広告プラットフォーム「Apple Ads」において、現時点で世界でも5社しか認定されていない「Apple Ads Partner」に選定されている企業です。
そのリバティーンズが、未成熟な日本のアプリマーケティング市場の活性化を目的に、満を持してAGSを日本で初開催しました。
今回は、今、企業が顧客との関係を深めるために注目している「クローズドイベント」の効果と、その本質を解き明かしたいと思います。
営業をしないBtoBイベントが生み出す価値
AGSのユニークな点は、「営業を一切行わない」という設計にあります。
いわゆるリード獲得型のイベントとは一線を画し、業界の第一線で活躍するプレイヤー同士が知見を共有し、関係性を深める場として設計されています。
アプリ成長・マーケティング・プロダクト領域の第一線で活躍するリーダーや実践者が世界各国から集まり、最新の知見や実例を共有する。
そして、その場を通じて参加者同士のつながりを深めていく。
その結果として生まれるのは、単なる情報収集の場ではなく、関係性そのものが価値となる空間です。
このような設計は、従来のリード獲得型イベントとは本質的に異なります。
実際に、会場にはGoogleやドコモ、タイミーなど、国内外の主要プレイヤーが集まり、単なる情報収集を超えた濃密な対話が生まれていました。
なぜ今、“誰にでも届くPR”だけでは不十分なのか
これまでのPRは、いかに多くの人に情報を届けるかが中心でした。
メディア露出やプレスリリース、SNS拡散といった手法は、その代表例です。
しかし、情報が溢れる現代において、「誰にでも届く情報」は、誰の記憶にも残りにくいという状況が生まれています。
広く届けるほど、文脈は薄まり、関係性は浅くなる。
その結果、「認知はあるが選ばれない」という状態に陥るケースも少なくありません。
こうした背景の中で、企業が顧客との関係を深める手段として注目しているのが、クローズドイベント(招待制・限定参加型)です。
これは単なる販促施策ではなく、ロイヤルカスタマーを育成するための戦略装置として機能します。
クローズドイベントがコアユーザーを動かす理由
クローズドイベントは、一見すると非効率に見える施策ですが、実際には非常に強い影響力を持ちます。
その背景には、いくつかの心理的・構造的な要因があります。
① 希少性が価値を生む
クローズドイベントの最も大きな特徴は、「参加できる人が限られている」ことです。
心理学における「スカーシティ効果」(*2)が示すように、人は希少なものほど価値が高いと認識します。また、Journal of Consumer Researchに基づく分析では、「希少性は最大50%程度も魅力度を高める可能性がある」とされています(*3)。
つまり、この場合、価値を持つのはイベントの内容だけではありません。”参加できる権利そのもの”が価値になる設計なのです。
② 「選ばれた体験」がロイヤルティを生む
招待制の場に参加することで、参加者は「自分は選ばれた存在だ」という感覚を持ちます。
この“選別体験”は、参加者に特別感と帰属意識を与え、ブランドとの心理的距離を一気に縮め、単なる参加者から、関係性(エンゲージメントやロイヤルティ意識)を持った存在へと変化させるとされています(*4)。
ここで生まれるのは、商品への満足ではなく、関係そのものへの満足です。
③ FOMOが行動を促進する
限定イベントは、参加者だけでなく、参加できなかった人にも影響を与えます。
それが、FOMO("Fear of Missing Out", 取り残される不安)です。
「この機会を逃すと体験できない」という感覚は、人の意思決定を強く後押しします。いわゆる行動経済学における「損失回避」が機能します(*5)。
特にSNS時代においては、参加者の発信がさらなる関心を生み、次回への参加意欲を高める循環が生まれやすいです。
④ 密度の高い体験が関係性を変える
クローズドイベントは人数が制限されるため、関係性の密度が高くなります。
ブランド担当者との直接対話
価値観の近い参加者同士のつながり
オフレコでの深い情報共有
こうした体験は記憶に残りやすく、単なる参加者から「コミュニティメンバー」へと関係が進化し、ブランドとの感情的な結びつきを強化します。
リバティーンズの取り組みが示すもの
AGSは、こうした要素を高度に統合した設計になっています。
営業を排除し、情報の質を担保し、参加者を選別する。
その結果として生まれるのは、単なるイベントではなく、コミュニティに近い存在です。
リバティーンズは、この場を通じて単にサービスを訴求しているのではなく、業界の中でどのような関係性を築くかという視点で、マーケットに働きかけています。
重要なのは「イベント」ではなく「関係性の設計」
ここで重要なのは、クローズドイベントそのものではありません。
本質は、誰をどの場に招き、どのような関係性を設計するかにあります。
誰を招くのか
どのような体験を提供するのか
その体験がブランドとどう接続するのか
これらが一貫して設計されて初めて、イベントは戦略として機能します。
PRは「認知」から「関係設計」へ
これからのPRにおいて重要なのは、
どれだけ多くの人に知られるかではなく、
どのような人と、どのような関係を築くか です。
クローズドイベントは、その象徴的な手法の一つに過ぎません。
しかし、その背景にある「関係性設計」という考え方は、あらゆるPR活動に通じるものです。
自社にとって最適なBtoBにおけるPR戦略とは何か
クローズドイベントを実施すべきかどうかは、企業ごとに異なります。
重要なのは、自社のフェーズや目的に応じて、適切な戦略を選択することです。
「イベントの成果が名刺獲得で止まっている」
「発信はしているし、認知は広がっているが、指名や問い合わせにつながらない」
といった課題をお持ちであれば、一度PR戦略全体の設計を見直すタイミングかもしれません。
AStoryでは、単発の施策ではなく、企業のパーパスや事業戦略に基づいた、「誰とどのような関係を築くか」という視点からPR戦略を設計しています。
自社にとって最適な打ち手を整理したい場合は、お気軽にご相談ください。
参考・引用元
*1:「App Growth Summit Tokyo 2026」https://appgrowthsummit.com/events/app-growth-summit-tokyo-2026/
*3:「イベントマーケティングにおける希少性の原則」Scarcity Principle in Event Marketing Creating Buzz and Urgency - FasterCapital
*4:「イベントブランディングにおける独占性がいかに深いエンゲージメントとロイヤルティを促進するか」How Exclusivity in Event Branding Drives Deeper Engagement and Loyalty
*5:「FOMO|イベントマーケティングにおける緊急性と希少性」Creating FOMO: Urgency and Scarcity in Event Marketing | WebMobi Blog
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小西 みさを
AStory合同会社代表/パーパス・ブランディング・コンサルタント。全省庁統一資格有資格者。
企業広報・ブランドコミュニケーション領域において30年以上の実務経験を持つ。
Amazon広報本部長として日本市場におけるブランド戦略統括や、ソフトバンク、セガなど上場企業での広報・海外広報経験を経て独立。MBA(英ウェールズ大)修了、Oxford Executive Leadership Programme修了。株式会社NJS社外取締役、ヒューマンライフコード株式会社社外取締役、BS朝日放送番組審議委員、社内報アワード審査員。
【主な講演実績】
新経済連盟 / Startup Hub Tokyo(東京都主催)/岡山県/静岡県/徳島県/香川県/沖縄経営者協会/コクヨ/静岡銀行 / コニカミノルタ / 三菱UFJ/阪急阪神ホールディングス / 経営合理化協会/京都広報懇話会懇話、マーケティングセールスワールド/第一生命HD/東京海上 ほか多数。筆者の実績については下記をご覧ください。https://www.astorypr.com/company-overview
AStoryでは、アマゾンジャパンの黎明期から戦略的広報でブランド価値向上に貢献し、2015年には日経BP社「ブランド・ジャパン」調査においてブランド価値ランキング総合1位を獲得するまでのプロセスをリードしてきた代表小西の知見をもとに、パーパス・ブランディングの構築からPR戦略立案、広報人材の育成まで一貫してご支援しています。
AI時代において、「何を伝えるべきか」「どのように意味を設計するか」に悩まれている企業様も少なくありません。もし、自社の広報の役割や育成のあり方を見直したいとお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。