社外取締役に広報視点を入れるメリット

 

先日、広報戦略策定の支援に携わっていた企業の社外取締役に就任いたしました。

当初のご依頼は社長をはじめ経営陣の皆様と一緒に広報戦略を策定しつつ、社会とコミュニケーションをとる心得や、そのノウハウづくりをサポートするものでしたが、同社はその過程で経営において社会とのコミュニケーションの重要性を再認識されたようです。

「全社一丸となって社会と能動的にコミュニケーションしていく」とコミットをされ、改めて社外取締役としてのオファーをいただいたのは、AStoryのパーパスである「企業が社会と共創するコミュニケーションを実現」を掲げて企業のサポートをする身としては冥利に尽きるものでした。

でも皆さんご存知でしょうか。広報出身者の社外取締役が少ないことを。
経営に多様な観点を入れる意味でも今後広報社外取締役のニーズが高まるのではと推測します。

 
 

社外取締役とは

経済産業省の「社外取締役の在り方に関する実務指針」によれば、

「社外取締役の最も重要な役割は、株主の付託を受けて、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る観点から経営を監督することである。」

と説明しています。
そして、社外取締役の心得を以下のように定めています。

《心得 1》
社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。
その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEO の交代を主導することも含まれる。

《心得 2》
社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきである。

《心得 3》
社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである。

《心得 4》
社外取締役は、社長・CEO を含む経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛けるべきである。

《心得 5》
会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、社外取締役の重要な責務である。

どの心得も全ての社外取締役が意識すべきことですが、広報視点では《心得 2》において最も広報のバックグラウンドが活きるのではと思います。
中長期的で幅広い視点で会社の持続的成長に向けた経営戦略を策定し実行していくには、長期的な視点で社会と信頼を構築することが欠かせません。
以前の記事「評価される企業が重視していること」でも説明しましたが、社会との信頼関係を高めるためには複数のステークホルダーを意識した事業活動とコミュニケーションが必要になってきます。

このような視点は実績を積んできた幹部クラスの広報のエキスパートならでは備えているスキルなので、幅広い視点での意見・助言を期待することができるでしょう。

 

社外取締役に広報視点を入れるメリット

私自身、広報として経営戦略・計画に携わってきた身としては、社外取締役に広報を入れることは非常に有益だと思っています。

広報は長期的に社会と信頼関係を構築し企業が成長するためのコミュニケーション戦略・戦術を講じます。
そのため、短期志向で自社満足な思考で、ステークホルダーの信頼や期待を裏切るような企業戦略は長年の経験から阻止すべきであると判断します。
業績向上を求められる事業部からしてみると嫌な存在かもしれませんが、長い目で見れば企業を守ることにつながります。

また、パーパスやビジョンから逆算した事業活動になっていない場合、広報から疑問が投げかけられるでしょう。
これまでは、「競合のA社が始めて売れているようだから弊社も取り組む」という考え方で通用したかもしれませんが、そのような思考では、到底社会との信頼関係は築けません。広報出身の幹部経験者であればその点は厳しくモニターしていくことでしょう。

 

経営に広報視点を入れないとどうなるか

仮に「競合のA社がリリースした商品が売れているようだから弊社も少し機能アップして展開する」ということが決定されたとしましょう。
それが御社の存在意義や将来目指している姿からかけ離れている場合、社会は「宣言していることと、やっていることとつじつまが合っていない。その場しのぎか?いずれ撤退するのでは?」というように思うかもしれません。
実際、過半数の消費者が「企業に自分と同じ価値観を求める」と言っています。
そのため、ビジョンには共感していても、ビジネスに整合性がないとわかると、企業に共感しなくなる消費者が増えていくことが予想されます。

 

上場企業の社外取締役の属性

経済産業省の資料(*1)によれば、日本の取締役のスキル保有状況において、グローバル、ビジネス、人事、サステナビリティ、コーポレートファイナンス、リスク・管理全般、技術、監査のスキルと比べて広報スキルを持った取締役は少ないようです。
一橋大学大学院商学研究科教授の江川雅子氏の調査レポート(*2)によると、日本は海外に比べて,国籍,年齢,教育,経験などが似通っているといいます。
実際、投資家から「社外取締役を増やすといっても、同じようなバックグラウンドの者ばかりでは意味がない」という意見があった。」ともありました。
社外取締役比率3分の1以上を求める機関投資家の声が近年増しているというデータ(*3)もあり、社外取締役のさらなる多様性を求められる動きは今後も日本において活発になっていくことでしょう。

 

先進的な企業の動き

最近のニュースでも、セブン&アイ・ホールディングスがグローバル企業として成長するために多様な人材を社外取締役に選任したことが報道されていました。

セブン&アイ、新体制可決 社外取締役過半に

これによりセブン&アイ・ホールディングスの今後の展開がどうなるのか注目したいと思います。

また、私が素晴らしいなと思った他社の事例ですが、株主向けの報告書などに取締役を一覧にして、それぞれがどんな専門領域をカバーしているか、いわゆるスキルマトリックスを開示していている企業があります。
米国の企業には多いようですが、企業活動においていろんな側面をカバーできるように人選していることが伺え、株主はじめその企業と関わりのある人たちにとって安心と信頼ができる好例になっています。

究極の理想はお客様の多様性に合わせた役員の多様性です。お客様のニーズにお応えしていくためにも多様な人材を社外取締役に選出してもよいのではないでしょうか。
それは今後必ず、投資家含めステークホルダーからも求められてくるはずです。

 

AStoryでは企業のビジョン、ゴール、チャレンジを中長期的にサポートすることを目的に経営支援やPR戦略策定のお手伝いをしています。ご興味のある方はお気軽にコチラへお問い合わせください。

 

*1出典:経済産業省産業組織課 「取締役のスキル保有状況」 『CGS研究会 第4回事務局資料』(2022年)

*2出典:江川雅子「社外取締役の役割」―取締役会改革,女性社外取締役の現状分析―」『証券経済研究』第100号(2017年)

*3出典:株式会社東京証券取引所 「4 ‐ 7.独立社外取締役の選任状況」 『東証上場会社 コーポレート・ガバナンス白書』(2021年)